キース・ロバーツ/パヴァーヌ(1968年)
(ちくま文庫 2012年)
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楽天:パヴァーヌ
<ストーリー>
1588年、エリザベス1世が暗殺され、混乱に乗じたスペインが無敵艦隊を使って英国を占領。
英国と欧州諸国はカトリック教会の支配下に入る。
そのまま封建制度と宗教支配が継続、20世紀になっても異端審問が猛威を振るい、
科学は弾圧され、許されるのは蒸気機関だけ。
しかし21世紀、ついに反乱の火の手が上がる。
異なる歴史をたどったもうひとつの英国を詳細に描写し、人びとの人生を謳いあげる、いまなお新しい伝説的作品。
待望の復刊!
サンリオ文庫版(1987)、扶桑社の単行本(2000)、ともに絶版となって久しいために、
「幻の傑作」と呼ばれ、
マーケットプレイスで高値がついていたキース・ロバーツ「パヴァーヌ」が、ちくま文庫からめでたく復刊されました。
とはいえ今回もそれほど売れるとは思えないので、
気になる方は絶版になる前に入手しておくほうがいいと思います。
私は扶桑社版を持っていますが、ご祝儀代わりに買っちゃいました。
章の順序が変更されていたり、舞台となるイギリス南部の地図がついていたり、訳注が増えていたりします。
買った甲斐がありました。
さて、私が最初に読んだ時の感想を一言でいうならば
「地味」
であります。
考えてみれば、異なる歴史を歩んだ英国の片田舎の、普通の人々の生活をリアルに描こうってんですから
そりゃ地味にもなりますよね。
現実の英国すらなじみがないのに、パラレル英国の風物や習慣を詳細に描写されてもなあ。
しかも舞台になるのはロンドンのような大都市ではなく、ドーヴァー海峡に面するドーセット州。
さっぱりイメージわきません、いったいドーセットいうのでしょう?
・・・しかし、今回再読すると、すんなり作品世界に入り込めました。
一度読んだだけではよく理解できない小説というのがありますが、これもそのひとつだったようです。
蒸気車を駆使して英国一の運送業者にのし上がってゆく「ストレンジ父子商会」が縦糸となり、
マーガレットという女性の娘や孫が順繰りにヒロインを務め、歴史を動かしてゆきます。
それにしても第1章で、ジェシー・ストレンジ青年がマーガレットに振られる場面はじつに気の毒。
「だってあたし・・・、あなたがとても好きなんですもの、お友達としてね。」(70ページ)
いやー、可哀想すぎる、他人事とは思えましぇん。
その後ジェシーは人生すべてを仕事に捧げ、大きな富を築きます。
数十年後、その財産がマーガレットの孫娘・エラナーを助け、ついには歴史を動かすことになります。
逆に言えば、あのときマーガレットがジェシーの愛を受け入れていれば、歴史はまた変わっていたはず?
ラストはちょっと甘いというかご都合主義の感がありますが、
静かで格調高いハッピーエンドは、暖かい読後感を与えてくれます。
「血沸き肉躍るサイバーパンク小説!」とか「歴史改変SFの名作!」と思って
肩に力入れて読むと空振り転倒は必至。
純文学みたいなものと思って、かたわらに紅茶でも用意して落ち着いて読みましょう。
味わい深い読書タイムを過ごせることでしょう。
(2012.10.20.)