荻原規子/樹上のゆりかご
(理論社、2002年)
初めて読む作家さんの本です。
著者の荻原規子さんは、ファンタジー小説の書き手として、かなり有名な人らしく、
「これは王国の鍵」「西の善き魔女」「空色勾玉」などの作品には、
熱狂的なファンが数多くいらっしゃるのだとか。
この作品は、ファンタジーではなく、東京のとある共学名門高校を舞台にした青春小説です。
<ストーリー>
辰川高校2年生の上田ひろみは、 生徒会執行部の友人に頼まれて、
校内合唱祭の昼食のパン売り役を引き受けます。
合唱祭の後、ひろみは、自分が売ったパンの一つにカッターの刃が仕込まれていて、
一人の生徒が怪我をしたことを知らされます。
ショックを受けながらも、執行部のひとりとして、秋の学園祭の準備にかかわるようになるひろみ。
ところがある日生徒会に、 「辰高祭は今年でつぶれる。死者負傷者がでる。おまえたちのせいだ」
という脅迫状が届きます。
生徒会長の鳴海知章は、「悪意を持たれているのは、きっとおれ個人だな」 と、
思い当たるフシがある様子ですが、多くを語ろうとはしません。
不穏な空気をはらみながら、学園祭の日が近づきます・・・。
・・・どうも私が要約すると、
「学びの園に悪意のカッターの刃! 学園祭を恐怖に陥れる企みに美人女子高生が挑む!」
みたいな、サスペンス劇場ノリになってしまいますが (^o^;)
そうではなくて、ごく上品でしとやかな雰囲気の青春小説です。
恩田陸の「六番目の小夜子」に、どことなく似ています。
出てくる生徒がみんないかにも優等生なのには、やや鼻白むものがありますが、
名門進学校の生徒って、いまでも意外とこんな感じなのかも。
作者自身の出身校がモデルらしく、自身の経験も投影されているよう。
男の私が読んでも、あの気恥ずかしい高校時代の気持ちが、かすかに甦ってきます。
荻原さんの文章の巧みさもあるのでしょう。
平易でありながら的確な表現。 センテンスは短かめ、とても読みやすく、
その一方で、格調の高さを兼ね備えた文章です。
さて、物語終盤、学園祭妨害騒ぎにも、一応の決着がつきます。
しかし、当事者から一歩引いた立場の、上田ひろみという女生徒を通して語られているため、
真相がどうだったのかは、ややあいまいなまま残されます。
本格推理じゃないんだから、これはこれでリアリティがあって良いと思います。
作者は、未だ何者でもない、自分が何者になるのかもわからない、自意識が強くて、不安定な、
でも妙に楽しそうな、「高校生」という生き物の生態を、リアルにしかも美しく描きたかったのでしょう。
(02.7.25.記)