和田竜/のぼうの城
(小学館 2007年)



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「ごめん。戦にしてしもうた」(167ページ)


時代小説は苦手である。

なぜかというと

 「漢字が読めない」

からである。

それでなくても時代小説は漢字が多く、ページが黒い気がするのに、
そのうえなぜ、
「これでもかというくらい難しい読みかた」
をするのであろうか。

さて、話題の時代小説 和田竜/のぼうの城 である。

本書でも、忍城と書いて「おしじょう」と読ませたり
酒巻靭負と書いて「さかまきゆきえ」と読ませたり
「そんなの読めんわー!」な
掟破りの読みが随所で炸裂する。

しかし数十ページも進めば、どうでも良くなるのである。

 「滅茶苦茶面白い」

からである。
小生でも読める時代小説を、久々に見つけたのである。

キャラクター設定はほとんどアニメである。
忍城側の3武将、丹波、和泉、靭負は、
「三国志」関羽、張飛、孔明をホーフツである。
丹波と和泉が喧嘩する場面は、人食いライオン手負いの虎がじゃれ合っているみたいで、
たいへん心和む。

そしてイワンの馬鹿、じゃなかった「のぼう様」、城代・成田長親
「でくのぼう」を略して「のぼう」。 そんなの略すか、普通?
しかし大人しいぼんやり者が、いざと言うときに思わぬ実力を発揮する、というストーリーは、
読んでスカッとするものである。
小生もよく家族から

 「またボーッとしてる」 「人の話し聞いてない」 「この大喰らい」

と言われるので、かなり親近感がわく。

物語の舞台となるのは忍城攻防戦

戦国時代末期、天下統一を目前にした豊臣秀吉が、
小田原城を拠点とする北条氏を攻めた戦において、
石田三成率いる三万の軍勢に攻められながら
北条側で唯一落ちなかった城が忍城である。
しかも石田の三万に対し、忍城側には五百人しかいなかったのである。
驚きの史実である。

といってもこの本を読むまで、知らなかったのである。無知である。
忍城は、現在の埼玉県行田市というところにあったそうである。

攻める石田三成も、人間味あふれるキャラクターになっていて、
なんかみんないい人ばっかりだぞ。
唯一、三成側の長束正家のみ、小憎らしい悪役、まさに一服の清涼剤。

調べてみると、忍城攻防戦を取り上げた時代小説はほかにも、
風野真知雄「水の城」(祥伝社文庫)宮本昌孝「紅蓮の狼」(文春文庫「青嵐の馬」所収)
などがある。
当たり前であるが、同じ出来事でも作者が違うと全然違う物語である。
「水の城」は、甲斐姫の性格がさらに過激で楽しい。 ただし長親は「普通の人」。
そして「紅蓮の狼」では、ほとんど戦闘マシンと化したターミネイター甲斐姫が大暴れ。
なんと長親は登場しない。

しかし、やはり一番面白いのは「のぼうの城」なのであった。

(08.11.8.)

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