カズオ・イシグロ/わたしを離さないで
(早川書房 2006年)



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<ストーリー>
31歳になるキャシー・Hは、もう11年も「介護人」として「提供者」たちの世話をしています。
彼女は、ヘールシャムという全寮制の施設で育ち、
同じ施設出身の親友・ルーストミーも、彼女が介護しました。
今でもよくキャシーは、ヘールシャムでの日々に思いをめぐらせます。
図画工作に極端に力をいれた授業、毎週の健康診断、「保護官」と呼ばれる教師たち・・・。
それは彼女にとっては懐かしい、かけがえのない思い出なのです。



ひたひたと迫る哀しみ、畏れ、そして諦念。
湖の底のように冷たく静かで、そして美しい小説でした。

キャシーの語り口がとても自然で(訳文も素敵です)、するりと物語世界に入ってゆけます。
寮生活の小さな楽しみ、友人とのいさかいと仲直りなど、小児期〜思春期の多感な日常が、
自然豊かなヘールシャムの風景をバックに、絹織物のように繊細に語られます。
キャシールースの心理の綾を浮き彫りにする筆致の巧みさには、もう惚れ惚れ。

そんな上質で美しい文章が徐々に明らかにしてゆく主人公たちの境遇。
逆らえない運命の中で、どのように生を全うするかが、ひとつのテーマでしょうか。

 「これは自分自身に当てはまる話なんだと気づいてほしかった。
 人の一生は私たちが思っているよりずっと短く、
 限られた短い時間の中で愛や友情について学ばなければならない。
 いつ終わるかも知れない時間の中でいかに経験するか。
 このテーマは、私の小説の根幹に一貫して流れています」
 (作者の言葉)

少々ネタバレしたくらいで読む意味が無くなるような薄っぺらい小説ではありませんが、
これから読まれる方は、あまり情報を収集せずに、まっさらな状態で読まれたほうがよろしいかもしれません。

個人的には今年読んだ小説の中でベスト5に入ります。
5冊しか読んでいないというオチではありません。あしからず。

(06.9.3.)

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