倉知淳/猫丸先輩の推測
(講談社ノベルズ 2002年)




軽く読める、ほのぼの系(?)連作ミステリ短編集です。

<夜届く> 寒い冬の夜、ひとり暮らしの平凡なサラリーマンのもとに一通の電報が。
        「病気 至急連絡されたし」 差出人の名前はなし。
        心当たりに連絡すれどみな元気。 数日後、単なる悪戯として忘れかけた頃にまた電報が。
        文面は「家火事 至急連絡されたし」 さらに3日後にまた「家倒壊」 ・・・いったいこの電報、なんなんだ?

<桜の森の七分咲きの下> 会社のお花見の場所とり中の新入社員くん。
                   ゴザを敷いて座っている彼のところに、次々に怪しげな男たちがやってきて、
                   「場所とりを代わってあげよう」とか、「少しの間向こうに行ってくれたら○万円あげる」
                   と甘い誘いの言葉。 こいつら、絶好のお花見スポットを横取りする気か?
 他、全6編収録。


いや〜、楽しく読めました。
この程度で「事件」と言っていいのかな? でもとても変だぞ?? という状況に首をひねっていると、
どこからともなく猫のような顔をした小柄な青年が現れて、妙になれなれしい態度で、
「これが真実とは限らないし、唯一の解答だって保証も、僕はしない。こういう捉え方もできるって話」
と言いながら、ひとつの「推測」を口にします。
するとあら不思議、すべてのピースがあるべき場所に収まって、奇妙な出来事に説明がついてしまいます。

明らかにチェスタトンの「ブラウン神父」や、泡坂妻夫の「亜愛一郎」の系譜を汲む猫丸先輩
ほのぼの&飄々としたキャラクターがとても良いです。
「癒し系名探偵」「ミステリ界のたれぱんだ(猫だろ)と呼びたいですね。
事実、<カラスの動物園>では、スランプに悩むキャラクター・デザイナーによって、
新キャラクター「ねこまるたろうくん」として商品化されそうになります。
正体は猫だけど、なぜか人間の振りをして、弟の「ねこまるじろうくん」とともに漫才師を目指しているという設定(わはは)。

こういう軽いノリのミステリ、巷にあふれていますけれど、
謎解きの出来、キャラクターの個性、全編通しての遊び心、どこから見ても完成度高い一冊。
倉知さんの本は今までに4冊くらい読みましたが、これが一番面白かったです。
サブキャラの中では、<失踪当時の肉球は>のハードボイルドなペット探偵・郷原さんが最高です。
樋口有介「木野塚探偵事務所だ」(講談社文庫)の木野塚佐平氏を連想します。でもこっちのほうが笑える)

(03.6.1.記)


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