伊吹有喜/なでし子物語四部作
(ポプラ社 2012〜24)
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<なでし子物語>
父が亡くなり、母に捨てられた10歳の少女・間宮耀子は、父の故郷である静岡県・遠州の遠藤林業で働く祖父と暮らすことに。
山林王・遠藤家の豪華で広壮な屋敷は地元住民から「常夏荘」と呼ばれているが、耀子が暮らすのは敷地内の長屋。
耀子は、遠藤家当主の息子でありながら「妾の子」扱いされている病弱な7歳の少年・遠藤立海と心を通わせる。
<天の花>
祖父が急死し、18歳になった耀子は、誰にも告げずに常夏荘をあとにする。
バスの中で、4年前の夏を思い出す耀子。久しぶりに常夏荘を訪れた立海と過ごしたあの夏を―。
<地の星>
時が経ち、時代の流れの中で凋落した遠藤家。常夏荘はもはや見る影もない。
28歳の耀子は遠藤家の跡取り・龍治と結婚し常夏荘の女主人となってはいるが、地元のスーパーでパートとして働いている。
スーパーが閉店の危機にあると知った耀子たち従業員は、さまざまなアイデアを出し合って店を支えようとする。
いっぽう常夏荘にも売却の話が持ち上がり・・・。
<常夏荘物語>
38歳になった耀子は、ある日、夫の龍治から突然離婚を切り出される。
その思いもよらない理由に耀子は驚くが、それを機に自分にとって本当に大事な人は誰なのか、思いを巡らし始める。
娘・瀬里の巣立ち、義母・照子の愛、そして片時も忘れたことのない存在、立海・・・。
直木賞候補に何度も名を連ねる作家・伊吹有喜。
残念ながら受賞はまだですが、いずれ必ず獲られるでしょう。
12年がかりで執筆の四部作が完結したと聞き、一気読みいたしました。
面白かったです!!
なでし子物語四部作
ひとりの女性の10歳から40歳までの30年を描いた大長編。
1977年から2008年までの天竜川流域・遠州(静岡県西部)が舞台。
瀬戸内の民である私にはさっぱり土地勘のない場所ですが、読むには差し支えありませんでした。
始まりは「アルプスの少女ハイジ」か「赤毛のアン」のようで、途中から「おしん」みたいになります。
耀子と友達になる病弱な男の子・立海は女装させられており、「ハイジ」のクララのようです(女の子の姿で育てるのが魔除け・健康祈願になるという風習)。
おどおどしてろくに口もきけない少女だった耀子がたくましく成長し、ついには起業して遠藤家を支えるまでになります。
地方の旧家を舞台にした女性の一代記といえば、有吉佐和子の「紀の川」「有田川」などが思い浮かびますが、
やはり時代でしょうか、そこまでドロドロはしていません (まあでも多少は・・・)。
小道具として携帯電話や、最後のほうではiPhoneも出てきます。
脇役も丁寧に描かれ、物語に厚みを加えます。
母に捨てられて引っ込み思案となり、学校でもいじめられる耀子を励まし、人生の指針を与えてくれた家庭教師の青井先生。
青井が白板に文字を書き始めた。
『自立と自律』とあった。
「自立、自分の力で立つということ。うつむかずに顔を上げて生きるということ。自律、自らを律すること。美しく生きるということ」(「なでし子物語」より)
あと、子供のころ耀子に意地悪した親戚の娘・由香里が「地の星」では耀子が働くスーパーに新店長として赴任、いつしか良きバディになるのも胸熱。
耀子と結婚する遠藤家の跡取り・龍治の行動は謎めいていますが、最終巻「常夏荘物語」でその真意が明らかになります。
ヒロインは耀子ですが、真の主役は「常夏荘」かもしれません。
昔は山城があった場所に最高級の天竜杉を惜しみなく投入し、八年の歳月をかけて造られた豪壮な屋敷。
遠藤家の一族が住む邸宅のほかに客用のゲストハウス、「百畳敷」と呼ばれる大宴会場、仏間と茶室を兼ねた「庵」と呼ばれるお堂、
使用人が住む長屋、そして多くの蔵などが立ち並び、一時は40人近くが暮らしていたといいます。
想像するだにワクワクしますね〜(古い建物好き)。
耀子と常夏荘はさまざまな試練に襲われるものの、物語は基本的に明るく、力強いものが根底を流れています(NHKの朝ドラっぽいともいえます)。
最後は大団円となりますので読後感はグッドです。
それにしても立海は辛抱強く待ったねえ・・・。
思わず「こんなヤツは居ねえよ!」と突っ込みたくなりますが、そこはまあ小説ですから。
(2024.11.09.)