エドワード・ドルニック/ムンクを追え!
「叫び」奪還に賭けたロンドン警視庁美術特捜班の100日
(光文社 2006年)




Amazon.co.jp : ムンクを追え!


<ストーリー>
1994年2月12日早朝、ノルウェー国立美術館から、ムンクの名画「叫び」が盗まれました。
囮捜査官チャーリー・ヒルを擁するロンドン警視庁美術特捜班が、「叫び」奪還に乗り出します。
名画が無事回収されるまでを緊張感たっぷりに描いたノン・フィクション。


美術品泥棒さん必読です!


美術品を盗むといえば、思い出すのは1966年の映画「おしゃれ泥棒
ウィリアム・ワイラー監督、オードリ・ヘップバーン&ピーター・オトゥール主演の、タイトルどおりお洒落なコメディ。
機略・策略を縦横無尽にめぐらせ、厳重な警戒をかいくぐって美術館から彫刻を盗み出します。
しかしこの本を読んで知ったのですが、現実には美術品はとても簡単に盗めてしまうようです。
オードリとピーターは、ブツをひっつかんで走って逃げればそれでよかったのかも。 
「お洒落」は犠牲になりますが。

1994年にムンク「叫び」を盗まれたノルウェー国立美術館は、侵入者が窓を割った時に警報が鳴ったのに、
誤作動と思い込んだ警備員がスイッチを切り、やすやすと盗難を許してしまったのです!

ノルウェーだけでなく、たとえばルーブル美術館も警備体制は貧弱そのもの。
そもそもルーブルは「収蔵品の点数や雇用している人数について、おおよその数さえ把握していな」いそうです。
監視カメラが設置されていない部屋も多く、
「展示物から一点を盗み出すのは、デパートで万引きをするよりも、はるかに容易」なんですと!
今度パリに行かれる方は、ぜひルーブルからお土産代わりに一点もってきたり・・・・しないでくださいね、国際問題になります。

本書の主人公は、ロンドン警視庁美術特捜班の囮捜査官チャーリー・ヒル
美術好きの富豪などに扮し、盗んだ絵を買いたいと犯人グループに接触、絵を回収するのが仕事です。
「叫び」の場合も、警察は絵のありかを知っていそうな闇のブローカーをつきとめますが、
この男を逮捕して締め上げても、絵は決して戻ってこないでしょう。 彼の出番です。
チャーリー・ヒルのキャラクター、ビンビンに立っています。 細心にして大胆、ときに無謀、危険を愛するというか、命知らず。
これが実在の人物とは・・・。

今回ヒルはゲティ美術館というアメリカの個人美術館の代理人に扮します。
そして、「ゲティ美術館が金を払うから絵を返して欲しい、そうすればゲティの評判は上がる。
さらにノルウェーからの謝礼がわりに「叫び」をしばらく展示させてもらえば、ゲティも損にはならない」と話を持ちかけます。 
さて、囮捜査の首尾やいかに・・・。

同時に、さまざまな美術品盗難事件の顛末が紹介されます。
犯人たちがどこで失敗したのか、あるいは成功したのか、詳しく解説してくれますので、
これから美術品泥棒になろうというかたには、まさに必読の名著といえます。
私は別に転職しようとは思っていませんが、それでも今年読んだノン・フィクションでは屈指の面白さでした。

ところで、ムンクの「叫び」、2004年に再び盗まれて、今もまだ見つかっていないそうです。

(06.6.17.)




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