シュトルム/みずうみ 他四篇
(関泰祐・訳 岩波文庫 1979年)



Amazon.co.jp : みずうみ 他四篇 (岩波文庫)


ラインハルトは、近所の年下の少女エリーザベトと兄妹のように育つ。
やがてラインハルトは大学生となり故郷を離れる。
2年後、学業に励むラインハルトのもとに手紙が届く。
エリーザベトはラインハルトの旧友エーリヒから結婚申し込みを受け、2度断ったものの3度目に受諾したという。
数年後、ラインハルトは招かれてエーリヒの邸宅を訪れ、エリーザベトと再会する


まだ6月中旬なのに、暑いです。
今日は余裕で気温30度を超えるらしく、熊谷市では35度超もありうるとか。
今からこれじゃ、7月、8月はどうなるんでしょう・・・?
日本は熱帯になってしまったのでしょうか?
そのうち、その辺の山にマンゴーやパイナップルの木がニョキニョキ生え出すかもしれません。

まったく、湖にでも飛び込みたい気分です。

さて、NHK−FMの「きらクラ!」というクラシック音楽バラエティ番組に、「BGM選手権」というコーナーがあります。
お題の朗読に合うBGMをクラシック音楽から選んでリスナーが投稿、番組で聴き比べて最優秀賞をテキトーに決定するというもの。
先日のお題は、テオドール・シュトルム(1817〜1888)「みずうみ」の一節でした。


 「夕立が来ますわ」
 とエリーザベトは言って足を早めた。ラインハルトは黙ってうなずいた。そして二人は、小舟のあるところへ辿りつくまで岸辺伝いに急いで歩いた。
 湖水を渡るあいだ、エリーザベトは手を小舟のへりに休ませていた。ラインハルトは漕ぎながら彼女の方を見やったが、彼女は彼から視線をそらせて、遥かなる方を眺めていた。
 ふと彼の視線がすべって、彼女の手にとまった。その青白い手は、彼女が顔にはそれと見せないでいた胸の秘密を彼にもらした。
 彼はその手に、夜々悩める胸の上に置かれる、婦人の美しい手に現れがちな、あのひそかな悲しみのかすかな跡を見たのである。
 エリーザベトは彼の眼がじっと自分の手を見まもっているのを感じると、静かに手を舟べりから水の中へすべらせた。



シュトルム「みずうみ」、タイトルは知っていましたが、読んだことはありませんでした。
この意味ありげな一節に惹かれ、何年ぶりかで岩波文庫を買ってみました。

 せ、せつのうございました〜!

いやー、芸術ですね、文学していますね。
最近、殺伐としたミステリとか尖がったSFばかり読んでたもので、穢れた心も洗い流される気分です。
端正な文章でつづられる、失われた恋の物語。
まあ、実らずに終わった恋だからこそ美しいってのもあるわけですが。

しかし
エーリヒ、絶対わかってて二人を会わせたでしょ、ひどいですなこいつ。
ラインハルトも
「なんの罰ゲームだよっ!」と、心の中で突っ込んでいたはず。
まあエーリヒもエーリヒなりに、エリーザベトの想いが自分にないことを感じて辛いものがあったのかもしれませんがね。

登場人物の心理描写は意図的に抑えられ、読者は風景や動作からそれらを読み取らねばなりません。
面倒ではありますが、それだけ想像の余地があり、物語に深みが増します。


他の短編も良かったです。
とくに
「広間にて」の少女バルバラの可愛らしさといったら!
おばあちゃんになったバルバラが、自分とおじいちゃん(夫)の出会いを、孫たちに話して聞かせるのですが、
とにかく可愛らしく、幸福な一編。

薄い本ですが、「いや〜、良いものを読んだ!」という満足感に浸れる一冊でした。

(2016.6.18.)


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