スカーレット・トマス/Y氏の終わり
(早川書房 2007年)



Amazon.co.jp : Y氏の終わり (Hayakawa Novels)

<ストーリー>
偶然はいった古書店で、大学院生アリエルがめぐりあったのは、『Y氏の終わり』という本。
それは、主人公・Y氏が人の心のなかでくりひろげる冒険を描いた伝説の小説だった。
本に記された方法をためしたアリエルも、人の心のなかに入ることができるようになる。
しかし、本を狙う謎の男たちに追われ、あてどのない逃避行へ。
わたしがここにいる理由はなに? 世界はどういうふうにできたの? 愛するとはどういうこと?
旅の果てにアリエルを待つのは――。


自分がこんなにバカだったなんて信じられない。
自分の頭の中で迷子になるなんて。
(384ページ)

なんともジャンル分けしにくい小説ですなぁ。
ファンタジーのようでもあり、ミステリのようでもあり、哲学小説のようでもあり、SFのようでもあります。
おまけに展開が全く読めません。
「な、なんでそうなるかな〜!」と心の中でつっこみながら、振り落とされないようについていくのが精一杯。
過去に読んだどんな小説とも似て非なる、ちょっと型破りなエンタテインメント小説。
いやあ、面白かったです(結局褒めとるのか!)

基本的には、人の心の中に入ることができるヒロインの冒険物語なのですが、
アリエル自身かなり破滅的かつ奔放な精神の持ち主。 フツーじゃないです、ちょっとアブナイですこの人。
唐突にホメオパシーとか量子力学とかシュレーディンガーの猫とか出てきますが、
すぐにアリエルが明快に解説してくれるので難解なことはありません。頭はムチャクチャよさそうですこの人。
ラストは・・・予想もつかないところに着地します。 悲劇なのかハッピーエンドなのかもよくわわかりません。
結局タイム・パラドックスはどうなったのだろう?

語り口は巧みで訳文もとても読みやすいです。
他者の頭の中にするりと入り込む部分の描写は何度読んでも素晴らしく面白い。
うっかりネズミに入ってしまったりもします。いやー、ネズミってこんなこと考えてるんですね。
ありきたりの小説に満足できないアナタにおすすめです。

ところで「Y氏」というのは "Mister Y"、つまり "Mistery" → "Mystery" という洒落なのかな。
 
(08.1.22.)

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