宮城谷昌光/クラシック私だけの名曲1001曲
(新潮社 2003年)



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古代中国ものを得意とする直木賞作家、宮城谷昌光氏は、マニアックなクラシック・ファンとしても知られています。
以前、集英社新書から「クラシック千夜一曲」(1999年)という音楽エッセイを出してます。
チャイコフスキーのピアノ協奏曲では1番より2番が好き、など、かなりのこだわりぶりでしたが、
「千夜一曲」というわりには、10曲しか取り上げられていないのがちょっと寂しかったです。
と、ところが・・・。
ついに出たのです。 本当に1001の「名曲」を選んでコメントした本が。

いやこの本は迷いました。買うか買わざるか。
宮城谷小説の主人公もよく、天下を憂えて立つか立たざるか迷っていますが、
いくらA5判で厚さが47ミリもあるからといって、税別5800円もする本を買うか否かの悩みは、
これまた深く苦しいものでありました。
結局、学校の体育館の舞台から飛び降りる決心で(その程度かい!)購入に踏み切りました。

いや、なんとゆーか滅茶苦茶に片寄った選曲です。
まず声楽曲・オペラは無視。 そしてマーラー、ブルックナーは1曲も取り上げていません。
また、「訳あって」モーツァルトは1曲もなし。 なぜかハイドンもゼロ(悲しいな)。
でもワーグナーの管弦楽曲はけっこう好きみたい。
そしてブラームスは、ほとんどすべての器楽曲が取り上げられています。
ちょっと不思議なのが、セザール・フランクに対する嫌悪ともいえる感情。
正直、「フランクって、積極的に嫌うほどの作曲家だっけ?」と思ってしまうのですが・・・。

1001曲の中には珍しい作品もたくさん登場します。
フィンランドの作曲家マデトヤ、フランスのマニャール、チェコのマルティヌー
スゥエーデンのベルワルドらの交響曲を、全曲取り上げています。
普通のクラシック・ファンは、こんなん聴いたことありませんで。
一方でベートーヴェンは1,2,5,6番しか取り上げていません。

曲と演奏に関するコメントでも、宮城谷節が全開、好きに書きまくってます。
たとえば、
 「この曲には創作意識の甘さがある。この程度でよいであろうとみずから限界をつくったところがある」(620ページ)
 「優しさのかけらもない演奏で、聴くにたえない」(693ページ)

(・・・なら聴くなよ)

作曲家や演奏家に対して少々失礼、と思わないでもないですが、
創作の現場で日々格闘している作家の発言ですから、「独善的」と片付けてしまえない説得力があります。。
ご自分でも、「ある種の偏見を持って聴いている」ようなことを言っておられますが、それは選曲を見れば一目瞭然。
むしろ、深く真剣に音楽と対峙している態度に尊敬に近いものを感じます。

個性的なCDコレクターの棚をこっそりのぞかせてもらうような、楽しい本でした。
高かったけど・・・

(03.8.23.記)


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