吉井亜彦/名盤鑑定百科・協奏曲編
(春秋社・2003年)




Amazon.co.jp : 名盤鑑定百科 協奏曲篇

「わっはっはっ!」
と、笑ってしまうくらいマニアックな本ですみません。
「名盤鑑定百科」は、これまでに「交響曲編」「管弦楽曲編」「ピアノ曲編」が出版されています。
今回は「協奏曲編」というわけです。、
このシリーズは、音楽評論家詩人の吉井亜彦さんが各ジャンル100曲を選び、
現在までに聴いたその曲の全てのディスクについて、寸評を加えるというもの。
今回の「協奏曲編」では、たとえばヴィヴァルディの「四季」は81種類、
ベートーヴェンの「皇帝」は76種類のディスクが挙げられています。
よくもまあこれだけ聴いたなあ〜、とひたすら呆れて、いや感心してしまいます。

寸評を読んで、むかし買ったもののあまり聴いていないディスクに手を伸ばしたり、
自分の好みとは違った評価に首をかしげてみたり、クラシック・マニアには、とっても楽しめる本です。
一枚あたりの評は30字程度とごく短いのですが、そこは言葉のプロ、
多種多様な言い回しで、演奏の特徴をうまくまとめます。
「いかにも才気ある若手独奏者が自信を持って語ったような性格だ」とか
「線の細い独奏だが、しなやかで、固有のシナをつくった語り口が魅力」とか。
取り上げたディスク総数3409、とのことです。これだけ多いと言葉のストックが尽きてしまいそうですが、
ひとつとして同じ評がない(と思う)のって、考えたら、すごいことかも。 さすがに詩人。

こうしたクラシック・ディスク紹介本で、最近のベストセラーといえば、
宇野功芳・他による「クラシックCDの名盤」(文春新書、1999年)があります。
もっとも、個性的でエキセントリックな宇野氏のチョイスは、面白いことは面白いものの
すべてのクラシック愛好者向きとは言えないところも。
それにくらべると吉井さんのスタンスはきわめて常識的。
「カラヤンは豪華だけど内容が少し薄い」、それに対して「バーンスタインは情熱的でアクが強い」
そして「小澤はていねいな仕事をするけれど自己主張が弱い」、などと考えておられることがうかがえますが、
これは普通のクラシック・ファンがなんとなく持っているイメージに近い気がします。
したがって評を読んで驚くことはめったになく、すすめられているCDは安心して聴けるものばかりです。
どの演奏を聴けば良いのかわからない初心者から、おもな演奏はあらかた聴き尽くしたつもりのすれっからしまで、
クラシックを聴く人なら楽しめるシリーズです。

クラシックにあまり興味のない方も、一度本屋で立ち読みしてみてください。
そして、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲のCDを93種類、チャイコフスキーのを96種類も聴いて、
それを分厚い本に書く人がいれば、その本を買って読む人もいて、
あまつさえ感想を自分のHPにアップする馬鹿までいることにふと思いをはせていただきましょう。
・・・しばし心がなごみませんか? (なごむかっ!)

(03.3.14.記)

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