冬目景/マホロミ〜時空建築幻視譚(全4巻)
(小学館 2012〜15)



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土神(にわ)は建築科の大学1年生。
ある日同級生と共に解体中の洋館に出かけ、落ちていたドアノブを拾った途端、目の前に幻のような部屋が現れる。
その夜、再び洋館を訪ねた土神は謎の美少女からそれは建物の持つ「記憶」であると告げられる。


冬目景(とうめけい)という漫画家さん、絵が綺麗で以前から好きです(多摩美大の油絵科卒らしい)。
ただ代表作と言われる「イエスタデイをうたって」(1999〜2015)は、11巻というボリュームに二の足を踏み、読んでいません。
「紙の本」派なので、置き場所をどうするかってのもありまして・・・。

本書「マホロミ〜時空建築幻視譚」はほど良いボリューム(全4巻)で休日の一気読みに最適。
古い建物の「記憶」や「想い」を幻視する能力を得てしまった建築科の学生・土神(にわ←難読苗字ですな)は、同じ能力を持つ美少女・深沢真百合と知り合います。
二人は力を合わせて建物が何を望んでいるのかを推理していくという、一種のミステリー仕立て。

土神は、亡くなった祖父が名のある建築家だったものの生前はほとんど交流がなく、「土神先生のお孫さん」と呼ばれることに忸怩たる思いを抱いています。
真百合は生前の祖父と縁があったようですが多くを語らない儚い雰囲気をまとった美少女。
様々な建物の思いに触れるうち、真百合を通して祖父の心を汲み取った土神が

 「今まで出会った建物たちの記憶を血や骨にして、僕は建築家になります」

という決意をはっきり口に出して物語は終わります。
美少女は出てきますが冬目景なのでエロ要素は皆無、それどころか恋愛すらほのめかされる程度で、じつに淡泊でお上品。

 しかし、それがいい!

ドロドロにしようと思えばいくらでもできる話をサラリと流して踏み込まないスタイル。
オッサンの心も洗われる思いです。
そしてなんといっても端正な画の美しさ。
建築がテーマということで建物や風景の絵がたくさん出てきますが、隅々まで丁寧に描かれており、綺麗な画集を眺めているような満足感すらあります。
もちろん人物の構図も完璧、さすが美大出の漫画家さんですっ!

脇役もいろいろ出てきますが、とくに印象深いのは富豪の息子で常に他人を見下すような言動をとるくせに、実はけっこういいヤツの石蕗(つわぶき)くん(これも難読・・・)。
彼が実質的な主人公となるエピソードもあり作者のお気に入りなのかも。

それにしても建物の思いを読み解いていくというストーリー、面白いです。
たとえば我が家は何を思っているでしょうか。

 おおかた「こいつへたくそなチェロばっかり弾きやがって!」とか思ってるんでしょうなあ。。。

(2020.07.23.)




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