村上龍/最後の家族(幻冬舎 2001年 1500円)


村上龍の現時点での最新小説。 ひとつの家族の崩壊と再生の物語です。
作者自身の脚本によりTVドラマ化されたそうですが、そっちの方面には全くうといので、残念ながら見てません。

<ストーリー>
21歳の内山秀樹は、自室に引きこもるようになって1年半。
父親の秀吉はメーカー勤務だが、会社の先行きは思わしくなく、リストラにおびえている。
母親の昭子は息子の引きこもりを何とかしようと、精神科やカウンセリングに通う日々。
そして秀樹の妹の和美は高校三年生。友人の紹介で、もと引きこもりだったという若手宝石デザイナーと付き合ううち
「自分の人生は自分で決める」ことを学んでゆく。

ここ数年の村上龍の小説は、「暴力・セックス・ドラッグ」のイメージが強かったのですが
「希望の国のエクソダス」あたりから何かが変わったような気がしてました。
あれは中学生集団が北海道に独立国を作るという、やや非現実的なユートピア小説でしたが、
具体的手段を細かく書き込んで、ひょっとするとありうるかも、と思わせる村上氏の筆力は大変なものでした。
そしてこの作品は、なんとホームドラマ。
家庭内暴力は少し出てきますがセックスとドラッグはなし。
今まで村上龍を敬遠していた人でも、これは抵抗なく読めそうです。
しかし、村上龍らしいメッセージは随所から読み取れます。

「親しい人の自立は、その近くにいる人を救うんです。
一人で生きていけるようになること。それだけが、誰か親しい人を結果的に救うんです」(284ページ)

以前から自作の中で、「自分自身で判断し行動することの大切さ」を訴えていた(と私には思える)村上氏ですが、
本作ではそのメッセージが今まで以上に表面に出てきています。
また村上作品は、現代社会の一側面を鮮やかに切り出してくる、情報小説としての面も見逃せません。
今回も、引きこもりやドメスティック・ヴァイオレンスについて具体的で詳しい情報を与えてくれます。

さて、小説の中で、最終的に内山家は崩壊します。
4人はばらばらになりますが、それでも各々が自分なりに新しい人生を歩んでゆくラストはさわやかであり、
一種のハッピー・エンドといってよいでしょう。

「家庭」というシステムがスムーズに機能しない時代が、日本でも始まりつつあるのでしょうか。
大切なことは、「家庭」の中にあっても各々が自立した人間であり、
お互いを自立した人間として認め合うこと、なのでしょう(うーむ、抽象的)。

この小説は、父親の秀吉が、昭子、秀樹、和美の3人を「おれの、家族なんだよ」と、他の人に紹介する場面で終わります。
「家庭」は崩壊したけれど、彼らは「家族」を得たことになります。
「家庭」にしがみついてそれを守ろうとしているうちは、彼らは本当の家族ではなく、
家族を演じていただけだった、ということでしょうか・・・。

私の家庭はどうやらまだ崩壊していないようですし(笑)、本当に幸いなことに今のところリストラもなさそうですが
この小説、決してひとごとじゃないな〜、と考えさせられた1冊でしたよ。
「家庭」に疲れている方には、ひょっとするとエネルギーを与えてくれるかも。

(02.1.16.記)

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