ジャクリーン・ケアリー/クシエルの矢(2001)
(ハヤカワ文庫 2009)


クシエルの矢〈1〉八天使の王国 クシエルの矢〈2〉蜘蛛たちの宮廷 クシエルの矢〈3〉森と狼の凍土


<ストーリー>
天使の血をひく人々の国、テールダンジュ
ここでは、愛の営みは神への捧げ物とされている。
苦痛を快楽と感じる体質の証 “クシエルの矢” をもって生まれた少女フェードルは、
謎めいた貴族アナフィール・デローネイに引きとられ、
陰謀渦巻く貴族社会で暗躍するためのあらゆる知識と技術を授けられる。
国の存亡を賭けた裏切りと忠誠が交錯する中、
しなやかに生きぬく主人公を描くローカス賞受賞の華麗な歴史絵巻、開幕。



表紙で引かないで!


私もそれなりに馬齢を重ねてまいりまして、かなり面の皮が厚くなったつもりでございます。
しかしこの本買うのは抵抗ありました。
「滅茶苦茶面白い!」との評判なので、是非読みたいと思ったのものの、カバーイラストが・・・。
これをレジに出すなんて恥ずかしいわワタシ。
ネットで買う手もありますが、地域経済に貢献するため、
買える本はなるべくリアル書店で買う主義なのです。

40代のオッサンには若干ハードル高かったですが、
近所の紀伊国屋書店で思い切って三冊イッキにオトナ買いだっ!

か、買えた・・・! ボク買えたよ!
またすこし面の皮が厚くなったような気がするよ!


それはさておき、確かにこれは面白いわ。
主人公フェードルは、生まれながらに苦痛や懲罰を快楽として感じる体質の持ち主。
要するに純粋マゾヒストですね。
スパイとして高度の訓練を受けたうえで、
神に愛の供物を捧げるための高級娼婦「神娼」として貴族社会に送り込まれ、
いやおうなく陰謀の渦に巻き込まれてゆきます。

いっぽう宿敵となる女貴族メリザンド・シャーリゼは、懲罰の天使クシエルの血を引く、いわば純粋サディスト。
このふたりの、互いに相容れないながらも惹かれ合うアンビバレントな関係も読みどころです。

第1巻のフェードルは主人デローネイの意をくみ、彼の手足として働きます。
しかし第2巻で大きな事件が起こり、死と絶望の淵に立たされた彼女は、
デローネイに教えられたことを活用しながら、自分で決断し行動せざるを得なくなります。
そして第3巻ではたくましく成長した彼女が、祖国を救うために命を賭ける・・・。

息もつかせぬ素晴らしいストーリー運び。
起伏に富みながらも無理のない展開。
とくに第2巻後半のスカルディア逃避行のスリルとサスペンス、
第3巻のトロワイエ・ルモン攻防戦の迫力とスケール、
表紙イラストからは想像できないほどの重厚で緻密な歴史絵巻、読みごたえ120%です!!

なおヒロインの設定上、官能描写もてんこ盛り。
子供は読んじゃダメだよ。

和爾桃子さんの訳文はなめらかで、とても自然な仕上がり。
翻訳ものにありがちなぎこちなさを感じることなく、快適に読み進められます。


現在、第2部「クシエルの使徒」も全3冊が刊行済み。
フェードルとメリザンドの宿命の闘いに決着はつくのでしょうか?
表紙イラストにめげず、これも買いに行かなくては。
ああ、また面の皮が厚くなる。

(10.5.15.)

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