中田永一/くちびるに歌を
(小学館 2011年)




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「歌」って、良いものですね。

しかし考えてみると、私自身はもう長いこと「歌う」という行為をしていません。
カラオケには行かないし、バンドも組んでいないし、週末に路上ライヴもやらない私は、
ふと気づくと長い長いあいだ、20年以上も「歌を歌う」ことから離れて生きてきたのです。

 そうさ、人間、歌なんか歌わなくても生きていけるのさ!

しかし、この小説を読んだら、なんとなく歌いたくなってきましたよ(←迷惑だからやめとけ)。

 中田永一/くちびるに歌を

長崎県・五島列島の中学校の合唱部が、NHK全国学校音楽コンクール(Nコン)に出場するお話。
アンジェラ・アキ「手紙」が課題曲ということは、2008年という設定ですね。

 新しく着任した顧問の先生は若くて美人。
 先生目あてに続々と入部する男子たち。
 これまで女子部員しかいなかった合唱部はてんやわんや、
 男子部員と女子部員が対立。
 また部員たちはそれぞれに家庭の事情を抱えてもいて・・・。

ストーリーは見事なまでにパターンどおり。
読者の想定の範囲内から逸脱することなく、粛々と展開してゆくのですが、
随所にちりばめられた細かい「お笑い」が意外なほどツボにはまってしまったのと、
「いまどきの田舎の中学生」の描写がリアルで(ウチの娘もこんな感じ)
スイスイサクサク読まされてしまいました。

そしてラストで回収されるサクマ式ドロップスの伏線の美しさ!
「これ綺麗すぎ!」 「ほとんど反則!」とわめきながらも、
ちょっとうるっとしてしまったオッサンの私です(←きもい)。
完璧にまとめすぎた感なきにしもあらずですが、
これほど美しく作りあげられたら何にも言えません、
さすがは乙・・・じゃなかった中田永一です。
この名義では初めての長編ですが、やっぱり凄いな、この人は。

じつは時代小説好きのニョウボと、ミステリ・エンタテインメント好きの私は、本の好みが真反対。
私が面白いと言えばニョウボはつまらんといい、ニョウボが最高と言えば私は最低と言い、
ときに血を見ることもあるのですが(嘘ですよ〜)、この小説に関しては珍しく好みが一致しました。
また、娘たちも「面白かった!」と申しておりました。

じつに「万人向け」と言えましょう、気持ちよく読めて素敵な一冊。
読み終わると歌いだしたくなりました!(←迷惑だからやめとけ)。

(2012.1.25.)


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