天野節子/氷の華
(幻冬舎 2007年)



Amazon.co.jp : 氷の華 (幻冬舎文庫)

<ストーリー>
知的で華やかでプライドが高く、何不自由ない生活を送る美貌の人妻瀬野恭子
彼女はある瞬間をきっかけに心を凍てつかせ、殺意を孕んでしまう。
そして起こるひとつの殺人事件。
恭子の犯行と確信する戸田刑事との攻防のゆくえは。。。


すみません、ちょっとなめてました。

60歳の女性が初めて書いた小説とか、米倉涼子主演でTVドラマ化とかいうのを聞いて、
勝手に薄っぺらいイメージを抱いていたのですが、読んでびっくり、骨太がっしり本格ミステリでございました。

メイン・トリックのひとつは、私の好きな鮎川哲也の「人それを情死と呼ぶ」に似通っていますが、料理の仕方が巧みでございます!
鮎川御大より自然な味付けかもです。
著者は無類の本好きで、読破した推理小説は1000を越えるということですから、
古今東西のミステリのエッセンスが脳内でうまいこと熟成されて、年季の入った糠床状態になってるのかも知れません。

それにしてもヒロイン瀬野恭子の存在感は凄い。
傲慢でプライドの塊のような美女。
高飛車オーラを周囲に振りまきながら生きています。
さらにアタマが切れて、決断力・行動力はレベル30以上。
こういう女性が身近にいたら、かかわりにならないよう素早く身を潜める用意がある私ですが、小説の登場人物としては最高でございます。
彼女の犯した完全犯罪を、和製コロンボ風刑事戸田が一歩一歩解き明かしてゆきます。
が、道のりは単純ではありません。
ひとひねりもふたひねりも加えられたプロットの妙が美しいのでございます。

文章も平易で読みやすく、変に気取っていません。
細かい伏線を張り巡らせ、終盤でかっちり辻褄を合わせる丁寧さも好みです。

カトリーヌ・アルレーにも負けない「悪女もの」の名品として、
今後も長く読み継がれるべき作品だと思うのでございます。

(08.12.6.)


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