ウェーバー/ピアノ小協奏曲



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唯一無二? ストーリーのあるピアノ協奏曲


「ストーリーのある音楽」って、ありますよね。
いわゆる「交響詩」に多く、デュカス「魔法使いの弟子」、R・シュトラウス「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」などが典型。

 ところで「ストーリーのあるピアノ協奏曲」ってありましたっけ?

じつはあるんですよね。

それは、カール・マリア・フォン・ウェーバー(1786〜1826)の「ピアノ小協奏曲」(1821)。

おそらく音楽史上に唯一無二の、「ストーリーのあるピアノ協奏曲」
18分ほどの単一楽章の曲で、4つの部分に分けられます。
傑作歌劇「魔弾の射手」と並行して作曲され、ほぼ同時に完成。
「魔弾の射手」初演当日の朝、ウェーバーはこの曲を妻のカロリーネと弟子のベネディクトに弾いて聴かせながら、筋書きを語ったといいます (余裕ですなあ)。



第1部:ひとりの女性が遠くを見つめながら、バルコニーに腰掛けている。
  彼女の愛する騎士は十字軍としてパレスチナへ遠征している。
  既に戦争が始まって数年の月日が経った。彼は生きているのだろうか。彼に再会できるのだろうか。


管弦楽に悲しげなメロディが歌われ、1分過ぎからピアノがアルペジオでしずしずと入ってきます。
いかにもキレイなお姉さんがさびしげにもの想いにふけっている感じで、思わず慰めてあげたくなりますが気を付けないとセクハラと言われますよ。
5:00あたりからピアノはせかされるようにテンポを速め、第2部に入ります。

第2部:彼女の脳裏に、傷ついた彼が戦場に横たわり、取り残されている光景が浮かぶ。
  彼の元へ飛んでいき、彼と運命を共にできたなら。
  彼女は不安に押しつぶされ、倒れてしまう。


5:24ピアノに激しい主題が出ます。愛する人が戦いの中で命を落としているのではと不安にさいなまれる女性。
7:02から長調に転じ、音階風の明るいメロディが出ます。「あの人はきっと大丈夫、あの人が死ぬはずはない」という希望のしらべ。
しかし8分過ぎから再び短調となり激しい主題が再現、恐怖と不安に翻弄される女性の心。
9:20ごろからテンポを落とし、ついにピアノは消えます。女性が気を失ったことを暗示しているのでしょう。
物悲しい木管の響きが、倒れた女性の姿を描写します。

第3部:そこへ遠くからトランペットの音色がこだまする。
  森の中、陽の光に輝くなにかが少しずつ近づいてくる。
  甲冑をまとい、旗をはためかせた騎士とその従者たちだ。 群集が称賛の声を上げている。

10:08 クラリネットとホルンから行進曲が始まり、だんだん大きくなります。
11:15 ピアノが突然オクターブで飛び込んできます。がばっと起きて「あの音は!」って感じですね。
行進曲は管弦楽の全合奏となります。

第4部:彼女の夫が戻ってきたのである。彼女は彼の胸に飛び込む。
  終わることのない幸せ。木々が愛の歌を歌い、あまたの声が愛の勝利を宣言する。


12:00 駆け巡るピアノが女性の歓喜をあらわします。
12:32からピアノのオクターブでロンド主題が提示され、ひたすら華やかで明るいフィナーレが繰り広げられます。

めでたしめでたし。


 この旦那さん、あらかじめ速足の伝令でも送っとけば、奥さんここまで心配させなくてよかったんじゃね? (サプライズ大好き男かよ)
 ・・・というツッコミは置いといて。

チャーミングで切れ味よく、無駄なくまとめられた協奏曲で、とっても聴きごたえあります。
「魔弾の射手」と共通した雰囲気も感じられます。
作曲家ウェーバーの脂がのりきった時期に書かれた傑作です。

 しかしその後「ストーリーのあるピアノ協奏曲」が書かれることはありませんでした。
 なぜだろう? シューマンなんか喜んで書きそうなのに。

ともかく、一度は聴いておいて損はない名曲です。

(2019.05.05.)

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