関かおる/小麦畑できみが歌えば
(角川書店 2025年)

Amazon : 小麦畑できみが歌えば
北海道の小麦農家でのびのび育った18歳の少女・唯吹は
幼い頃、アメリカ人の祖母と行った梶憬子ソプラノ・リサイタルがきっかけで歌とオペラが好きになった
唯吹は市民オペラのオーディションを受け、技術不足で不合格となるが
審査員だった梶に声質を買われ、アメリカのアンバー・オペラハウスのサマープログラムへの推薦をもらう
声はあなたが生まれ持った楽器です
あなたの楽器がどんな音を奏でるかを聞かせてください
関かおる/小麦畑できみが歌えば
オペラ歌手を目指す若者を描いた青春小説。
ヒロイン塚田唯吹はアメリカ人の祖母を持つクォーターで声楽好きの18歳、といっても家業の小麦畑を手伝いながら自分で好きに歌っているだけ。
市民オペラのオーディションを受けてみたら案の定落ちたものの、審査員の梶憬子から
「あなた、とてもおもしろい楽器を持っているのね」(34ページ)
と声質を買われ、あれよあれよという間にアメリカのオペラハウスのサマープログラムに参加することに。
プログラムの最終審査に合格すれば、オペラハウスの研修生になり、リサイタルやオペラの舞台に立つ機会が与えられます。
そして参加者の中には、中学時代の同級生で、真剣に声楽家を目指している岩崎寧音がいました・・・。
唯吹はダイヤの原石。
磨かれていないけれど、底知れない才能と素質を秘めています。
しかし北海道で実家の小麦農家を継ぐつもりだった彼女には、ピンときません。
いっぽう寧音は、唯吹とは中学まで同級生だったけれど声楽家になるため東京の音高に進学、
全国声楽コンクールで一位になったばかりのエリートです。
春のセンバツ高校野球の開会式で「君が代」を歌う寧音をTVで見た唯吹は、
友達が別の世界に行ってしまったように感じたことが悲しくて、
じゃあ一緒に歌えるようにならなくちゃと考えて、とりあえず市民オペラのオーディションを受けたのでした。
こ、これは・・・。
まるで「ガラスの仮面」の北島マヤと姫川亜弓ではないですか。
歌が大好きで才能もあるけれど野心のない唯吹と、そんな彼女に負けたくない寧音。
唯吹:「私は、隣の子じゃなく、自分が受からなきゃいけない理由を見つけられない」(171ページ)
寧音:「わたしはあなたたちが手放したものを、意地でも手放さない。いつか世界に認められて、手放したことを後悔させたい。そんな歌を歌えるようになりたい」(173ページ)
著者自身、音高で声楽を専攻していたそうです。
でも、音楽科で最初の授業を受けて、同級生たちの声を聴いた瞬間、自分がプロになるのは無理だと思い知りました。
声って、楽器なんですよ。技術も努力も必要ではあるんですが、声楽は生まれ持った体で勝負するものなんです。(著者へのインタビューより)
・・・けっこうな挫折を味わったんですね。
周囲がうらやむ才能の持ち主だったとしても、本人に野心がなかったとしたらどうなるか?
そんな子が、他の人を押しのけてでも上に行きたいと願うとしたら、それはどんなモチベーションなんだろうか?
と、考えながら書いたそうですが、文章は簡潔で読みやすく、読後感は爽やかです。
なお最終審査で唯吹が歌うのは、ベッリーニ「ノルマ」のアリア「カスタ・ディーヴァ(清らかな女神よ)」
マリア・カラスの名唱で有名な超名曲にして難曲です。
18歳でこれを歌いこなすとは・・・。
カスタ・ディーヴァ(マリア・カラス 1958年)
(2025.12.29.)