萩尾望都/シリーズ 「ここではない どこか」(全3巻)
(小学館 2006〜2011)

山へ行く(ここではない・どこか 1) スフィンクス(ここではない・どこか 2) 春の小川 (ここではないどこか3)



じつは萩尾望都、大好きでして、「ポーの一族」は雑誌連載当時から読んでました。
「花の24年組」ですからもう60代後半、2012年には紫綬褒章も受章され、創作意欲はますます旺盛。
今年2016年も岩明均「寄生獣」へのトリビュート作品「由良の門を」月刊アフタヌーン5月号に発表、
「寄生獣」の世界とリンクしつつ、ライフワークである「母と娘」を能楽や和歌とからめて描く、深みのある傑作でした。
そしてなんと5月末には40年ぶりに「ポーの一族」の新作が発表されるそうです!
絶対読まなくては!

現代最高の表現者・創造者のひとりと同じ時代を生きていることを、幸福だと感じます。

ちなみに最近の萩尾望都で一番好きな作品は、シリーズ「ここではない どこか」
売れない(?)小説家・生方正臣を狂言回しに据えた連作短編集です。

第1作「山へ行く」は、「今日は、山へ行こう」と思い立った生方。
山といっても、自転車でいける近くの里山。
さっそく出発するものの、妻や子供、編集者、近所の電気屋など、日常の雑事が彼を追いかけまわし、
どうしてもたどりつけないというカフカ「城」をほうふつとさせるストーリー。

普通小説のようなお話もあれば、SF・ファンタジーあり、謎めいた預言者が登場する謎めいた話も(なぜかヘンリー5世とカトリーヌ・ド・ヴァロワが出てくる)。
生方と全く関連のない話も少なくなく、バラエティに富んでいます。
楽しんで描いている感じが伝わってくるし、これ1作で萩尾ワールドのさまざまな面が味わえるお得感も。
ただ随所に「死の影」が見え隠れする作品が多く、決してお子様向けとは言えません。

どの短編も読み応えありますが、とくに第1巻収録の「柳の木」と第3巻収録の「春の小川」は、「親子」を正面から描いた珠玉の名品、大傑作。
「春の小川」には、それまでところどころで言及されていた生方の若い頃に亡くなった弟が、素直で思いやりのある少年として登場します。
これがまたいいやつなんだなー(こんないい子が若くして死んじゃうなんて・・・)。
母と子の情愛の美しさといい、涙なくして読めない名作です。

何度も読み返すに足る、傑作シリーズです。
最近の萩尾望都でどれか1作という場合は、これ読んどけば間違いないんじゃないかな。

(2016.05.07.)



「柳の木」より


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