上橋菜穂子/獣の奏者(T闘蛇編 U王獣編)
(講談社 2006年)

獣の奏者 I 闘蛇編 獣の奏者 II 王獣編
獣の奏者 1 (文庫版) 獣の奏者 2 (文庫版)

<ストーリー>
獣ノ医術師の母と暮らす少女エリン
ある日、世話していた闘蛇5頭が一夜のうちに死に、
母は責任を問われ処刑されてしまう。
孤児となったエリンは蜂飼いのジョウンに助けられ、
山の中で暮らすうち、天を駆ける巨大な獣・王獣に出会う。
その姿に魅了されたエリンは王獣の医術師になることを決意するが。。。


精霊の守り人 」「闇の守り人など、「守り人」シリーズで人気の上橋菜穂子さん。
「獣の奏者」はシリーズとはまた別の独立したファンタジー。
「奏者」は「そうしゃ」ではなく「そうじゃ」と読むそうじゃ

巨大な獣をあやつる少女の物語とくれば、どうしても宮崎アニメを連想してしまうが、
この小説は、人間の都合で獣をあやつることの危険性や悪影響にスポットライトをあてているのが特徴じゃ。
「純粋な少女がやさしく世話をしたら、獣も心を開きました」みたいな甘いお話になっていないのはよろしいのう。
せっかく病気を治してやった王獣リランに、肩を切り裂かれたり指を食いちぎられたり、傷だらけになるエリン
児童文学の主人公とは思えない扱い、気の毒なことじゃ。

 人の考え方を投影して、獣の心をわかったつもりになってはいけなかったのだ。(王獣編283ページ)

というのが、この小説のひとつのテーマかもしれぬのう。

アポリジニを専門とする文化人類学者の顔も持つ上橋さんだけあって、
舞台となる王国の社会構造や民族的バックグラウンドが、きちんと描かれていてしかもわかりやすいのも特徴。
ちょっと単純化されてる気もするけど、考えてみれば児童文学じゃったなこの小説、いちおう。

矛盾を抱える王国にとって、王獣をあやつる少女の登場は福音か災厄か。
「王獣をけっして飼い馴らしてはいけない」という掟を破り、
「霧の民」
と決別する王獣編第8章からクライマックスにかけては圧倒的な迫力

そしてやや唐突ともいえるラストへ。
これから王国はどうなるのか、エリンのしたことは正しかったのか、エリンは死んでしまうのか、リランはどこへ行くのか、
まったく示されないまま物語は終わってしまう。
しかしこれは、広げた風呂敷がたためなかったとか、締め切りが迫っていたとか、面倒くさかったとかではなく、
すべてを読者にゆだねておるのじゃろう。
これはこれで、きちんと完結していると思うのじゃが如何。
読み終えたあと、しばらく物語の余韻にひたってしまうこと必定。 

子供だけに読ませるのはもったいない、スケールの大きい小説じゃった。 内容も深かった〜。

それにしても最初にしょーもない駄洒落をかました勢いで、ミョーな文体になってしまったことが悔やまれる私であった。

(07.9.1.)



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