ヤナーチェク/弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」&第2番「ないしょの手紙」
(スメタナ四重奏団 1979録音)



Amazon.co.jp : ヤナーチェク:弦楽四重奏曲第1番<クロイツェル・ソナタ>・第2番<ないしょの手紙>

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「方言」って、面白いです。

先日ニョウボが会話の中で、

 「あばさかっとるー!」

と言いました。

 「それ何? どういう意味?」 と聞き返すと、

 「え、『あばさかる』わからんの? えーとね、そう! 『さいあがる』ことよ!」

 「・・・すみません、さらに輪をかけてわからんです」

「あばさかる」「さいあがる」は、ともに「調子に乗って暴走する」って意味らしいです。
言われてみればなかなかに味わい深い言葉のような。
私も今度使ってみよう(←誰にもわからないぞ)。


さて、クラシック音楽にも方言というかお国訛りはあります。
ドイツ&オーストリア、フランス、イタリア、ロシアなど、それぞれに特徴的。
そんななかで独特のなまりを持つのがチェコの音楽。
とくに、レオシュ・ヤナーチェク(1854〜1928)は、スメタナ、ドヴォルザークと同じチェコなまりの上に、
ご本人の強烈な個性が爆発、まさに「あばさかって」いると言えましょう。

私がとくに好きなのが2曲の弦楽四重奏曲
どちらも4つの楽章からなりますが、ソナタ形式どころかきちんとした形式の楽章はひとつもないという無双ぶり。
しかし、変化と躍動に富み、個性的で美しいメロディが次々に登場、全体として見事な構成美を感じさせてくれます。
魔法のように不思議な名曲です。

弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」(1924)は、トルストイの「クロイツェル・ソナタ」という小説の感想を音で描いた、「音による読書感想文」
小説は、妻と友人が演奏するクロイツェル・ソナタを聴いて、直感的に二人が不倫していることを見抜いた男が、妻をナイフで刺すという内容。
トルストイはこの小説で、「浮気はいかんぜよ」と言いたかったわけですが、
面白いことにヤナーチェクの感想は正反対で、刺された妻のほうに多大な同情をよせて、この曲を書きました。
それというのも実はヤナーチェク自身、妻がありながらカミラ・シュテスロヴァという名の年若い人妻に恋こがれていたのです。
どのくらい若いかというと、なんと38歳差!
ヤナーチェクは63歳の時に、避暑地で知り合った25歳のカミラに一方的に好意を抱き、亡くなるまでに720通もの手紙を送りました。
はっきり言えばストーカーですが、それなりに音楽家として認められていたおかげか、カミラがおおらかだったのか人間ができていたのか、
カミラのほうも返事を書いたり、演奏会への招待に応じたりし、生涯ヤナーチェクと夫婦ぐるみの付き合いを続けたそうです。
ヤナーチェクはカミラを「私のミューズ」と呼び、実際、彼の傑作のほとんどはカミラと知り合ったのちに産み出されています。
片思いを芸術に昇華させた、最高の実例ではないでしょうか。
なお興味深いことに、カミラ自身はあまり音楽を解さなかったと言われています。

 第1楽章
 

なお私は、この曲の冒頭のフレーズを聴くと、頭の中で「かぐや〜ひめ〜」と歌詞をつけて歌ってしまいます。
たぶんこのCMのせいだと思われます。

 

なので勝手に「かぐや姫四重奏曲」と呼んでたりします(コラコラ)。


弦楽四重奏曲第2番「ないしょの手紙」(1928)は、ヤナーチェクからカミラにあてた「音による恋文」
第1番よりさらに複雑で、テンポ・曲調・拍子は頻繁に変わります。
とはいえ難解ではなく、「発作的」という印象の作品で、そういう性格の人だったのかなあと思わされます。
多彩な音色、独特の響き、誰にも似ていない、鮮烈な印象を残す強靭な音楽。
聴くたびに新たな発見があり飽きません。

 第1楽章
 

 第4楽章 (ころころと変わる表情・・・)
 (注目の日本の団体、タレイア・カルテットの演奏)

この曲の完成から半年後、ヤナーチェクはカミラとその夫とともに滞在していた避暑地で雨に降られ、肺炎にかかり急死しました。


このCDはスメタナ四重奏団の4度目の録音で、白熱のライブ録音。
決定盤と言って差し支えないのではないでしょうか。

(2016.08.19.)



「君は天空をめぐる星で、私は別のところにある星のようだ。私は近づこうと思って走り続けるが、全然近づけない。私たちの軌跡はまるで重ならない。お互いに微笑みあって、それで終わりだ。」
(ヤナーチェクの手紙より)



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