パーシヴァル・ワイルド/検死審問(1940)
(創元推理文庫 2008年)




Amazon.co.jp : 検死審問―インクエスト

<ストーリー>
女流作家ミセス・ベネットの屋敷に、
親戚や出版関係者が集まるなか起こった
一人の男の死は、はたして事件か事故か!?
いざ始まった検死審問。
検死官リー・スローカム閣下が言うことには
検死陪審員には一人3ドルの日当が出る。
審問が長引けば長引くほど、もらえる手当ては増える。
検死官、つまりわたしには、
1ページ分の証言に耳を傾けるごとに25セントが支給される
しゃべればしゃべるほど、ページが埋まる。存分に発言してくれ」

だ、大丈夫か、この検死官?
さてさて、審問の行方は・・・?

わが国でもまもなく裁判員制度が発足します。
一般市民も陪審制度や審問制度に関する理解を深めておく必要がありますね。
というわけで読んでみました(←大嘘)。

高名な女流作家の屋敷では、誕生パーティーが開催中。
庭のあずまやで、作家のエージェントを勤める男が射殺体で発見されます。
庭では何人かの客が即席の射撃大会をやっていました。
これは事故なのか、他殺なのか?

はっきり言って事件そのものよりも証人たちの証言のほうが面白いです。
検視官は「長くしゃべれ」というばかりか、

 「好き勝手な方法で審問を進めてよしと法に定められているから、それを忠実に守る」(←ホントか?)

と言い放ち、やりたい放題。
各証人も、自分の一代記を語り始めます。

しかし、これがなかなか味わい深い。

ベテラン芝刈り職人ベン・ウィリットの、単純なようで深い人生、好きだなあこの人。

出版業者ピーポディは、ミセス・ベネットを売り出した過程について語りますが、これがまた抱腹絶倒。
売れる小説と良い小説の違いについて、シニカルに持論を展開します。

そして大作家ミセス・ベネット
「私の述べることを証拠として使うのはかまいませんが、活字にするのはおことわりしますよ。
(中略)もし活字にするのなら、印税の前払いを要求します。 さらに、売り上げに応じた印税も、通常の作品と同じ条件にすること。」
(214ページ)
と宣言して、一同を圧倒します。

笑いながら読み進めていくうちに、徐々に見えてくる事件の真相も十分に面白いし、洒落たエンディングにも思わずニヤリ。
巧みな構成、軽妙な語り口、これはまさしく大傑作。

べつに私などが言わなくても、レイモンド・チャンドラー江戸川乱歩も激賞の幻の傑作なのであります。
いやあー、この名品、長らく入手困難になっていたんですよねー。
新訳で復刊してくれてありがとう東京創元社
このあともパーシヴァル・ワイルドの作品を出版の予定とのこと、期待しています!

というわけで最高にオススメなのであります。

(08.4.23.)

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