ダン・シモンズ/ハイペリオン四部作(1989〜1997)
(ハヤカワ文庫)



第1部「ハイペリオン」(ハードカヴァー版)

Amazon.co.jp : ハイペリオン〈上〉(文庫版)
Amazon.co.jp : ハイペリオン〈下〉(文庫版)

<ストーリー>
時は28世紀。人類は「転移ゲート」(まあ「どこでもドア」ですな)を自在に操り、宇宙全体に版図を拡大しつつあります。
物語の舞台は辺境の惑星ハイペリオン。 ここには「時間の墓標」と呼ばれる謎の古代遺跡があり、
「シュライク」という、全身刃物のようなモンスターに守られています。
その「時間の墓標」をとりまく抗エントロピー場の膨張が観測され、墓標に何らかの異変が迫っている気配が。
おりしも宇宙の蛮族「アウスター」が、ハイペリオンに侵攻を開始。
「墓標」の謎を解くため、連邦は、ハイペリオンに因縁浅からぬ7人の「巡礼」を送り込みます・・・。


ハイペリオン四部作

・・・アメリカの作家、ダン・シモンズの超大作SF。
第1部「ハイペリオン」、第2部「ハイペリオンの没落」、第3部「エンディミオン」、第4部「エンディミオンの覚醒」
やっとすべて文庫化されましたが、全4部8冊を積み重ねると厚さ20センチ近くになります。
ありとあらゆる要素をごった煮的にぶち込んだ小説で、
恋愛あり・冒険あり・親子の情愛あり・時間旅行あり・戦闘あり・宗教論あり・進化論あり・・・もうなんでもありですわ。

第1部「ハイペリオン」は、全体の導入部。
各巡礼がひとりずつ、巡礼行に参加するにいたった経緯を語るという形式をとっていて、一種の連作短編集としても読めます。
巡礼たちの話も、ホラーあり・恋愛ものあり・ハードボイルドあり・難病もの(!)ありと、バラエティたっぷり。
趣向を凝らした短編を読んでいけば、物語の設定がわかってくると同時に謎も深まってくるという、たくみな構成。
学者の物語「忘却の川の水は苦く」と、領事の物語「思い出のシリ」が特に印象に残りました。

第2部「ハイペリオンの没落」のクライマックスで、物語は大きなカタストロフを迎えます。
ひとつの文明の終焉、世界の崩壊です。 スケールの大きさでは、この第2部がシリーズ随一といえましょう。

第3部「エンディミオン」は、その300年後のハイペリオンから始まります。
一本気な青年ロール・エンディミオンは、年老いた詩人から、宇宙を救う「救世主」を守るよう依頼されます。
まもなく「時間の墓標」から現れるというその救世主は、なんとまだ12歳の少女、アイネイアー
なにがなんだかわからないまま、一体のアンドロイドを従えて宇宙船に乗り、苦難の旅に乗り出すエンディミオン。
一方、連邦にかわり人類社会を支配するカトリック教会組織「パクス」は、アイネイアーの命を狙って執拗な追跡をしかけてきます・・・。
一番読みやすいのがこの第3部。 インディ・ジョーンズかダイハードかという感じの、ストレートな冒険活劇。
いや、「未来少年コナン」の世界に近いですねこれは。
直情径行でお人よし、頼まれたらいやとは言えないエンディミオンくんは好感度高いですし、
救世主・少女アイネイアーも、謎めいてはいるものの素直でかわいい良い娘です。

第4部「エンディミオンの覚醒」では、これまでに提出されたさまざまな謎が解き明かされます。
しだいに救世主としての本質をあらわし宇宙を駆け巡るアイネイアー。
途中で訪れる惑星<天山>ではチベット密教や禅の思想も登場します(禅問答が面白い)。
第1部、第2部の登場人物も、時空を越えていろんな形でからんできます。
ついに彼らは、人類の未来をかけて、「パクス」との最後の戦いに臨みます。
衝撃のクライマックスは、まさにSF版イエス・キリストあるいはジャンヌ・ダルクの物語。
そして、「深い悲しみをたたえたハッピー・エンド」とでも言うべき、忘れがたい余韻を残すエンディングへ・・・。

とくに印象に残ったキャラクターは、第3部から登場のアイネイアーですね、やはり。
崇高な使命感と、想像を絶する意志の力を持ちながらも、最後まで人間味を失わない、魅力的なヒロイン。

紹介も長かったが本編も長いですよ。 一気に読んでも2週間以上かかりそう (もう少し短くできなかったのかな?)
ただ読み終わっても合点のいかないことがいくつかあるので、近々もう一度読み返してみなくては (おいおい・・・)
これほどの大ブロシキ小説、よくまあ最後でつじつまを合わせてきれいにまとめあげたものです。
作者の筆力には、すごいものがありますね。 (あと翻訳文もとても良いです)
正直言うと、ある程度SFに慣れていないと、読むのにちょっと辛いものがあるかもしれませんが、
いったん世界に入り込んでしまえばめちゃめちゃ面白いです。

(02.12.1.記)

ハイペリオン〈上〉 ハイペリオン〈下〉

ハイペリオンの没落〈上〉

ハイペリオンの没落〈下〉
エンディミオン〈上〉 エンディミオン〈下〉

エンディミオンの覚醒〈上〉 エンディミオンの覚醒〈下〉


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