ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/星ぼしの荒野から(1981)
(ハヤカワ文庫 1999年)


Amzon.co.jp : 星ぼしの荒野から


表紙にだまされるな!


SF作家ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア(1915〜87)の短編集(5冊ある)の中で一番好きな本です。
表紙の少女マンガ風イラストにだまされて、うかうかと手に取ると、硬質で骨太で辛口な物語にびっくり。
なんとまあ空前絶後にハイレベルな短編集であることよ。

全10篇のうち最初の7篇は、何らかの形で人類が滅亡するか、危機に瀕する作品ばかり。
手を変え品を変え、嬉々として人類を滅亡に導くティプトリー・ジュニア
「今度はこう来たか!」「そういう手があるのか!」
読者もすっかり「人類の滅ぼし方」の権威になってしまうのであります。
とくに「ラセンウジバエ解決法」(ネビュラ賞受賞)には、背筋ゾワゾワ、寒気ジワジワ。 
恐ろしさという点ではこれ最高。

スケールの大きなショート・ショート「汚れなき戯れ」をはさんで、ラストの2篇が大傑作

表題作「星ぼしの荒野から」
深宇宙で進化した生命体の幼生が、群れから離れて飛び回るうち、
とある恒星の磁場にとらえられてしまい、やむなく近くの惑星に不時着。
地球と呼ばれるその惑星では、ちょうど一人の女の子が誕生する瞬間でした。
ポーラと名づけられた少女は、長じて数学や物理学に、異常な才能を発揮しますが。。。

・・・読み終えて、この華麗な物語がわずか70ページの短編であることにびっくり仰天。
長編のような充実の読後感、悲劇にもかかわらず妙に爽やかです。


最後の「たおやかな狂える手に」
キャロル・ペイジは誰からも愛されない少女。 でも血のにじむような努力の末に宇宙飛行士になります。
彼女がひとり不時着した惑星で出あった者は・・・。

・・・史上最高にスケールの大きい恋愛小説です。 異性人との恋愛を、これほど美しく描けるとは。
時空と種を超越した愛なのに、説得力たっぷりです。
わずか100ページで、大河小説並みの壮大な物語を構築してしまうこの著者、絶対天才です。


ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアは、本名アリス・ブラッドリー・シェルドン、じつは女性です。
1987年、彼女は病気で寝たきりの84歳の夫を射殺し、同じベッドの上でみずからも頭を撃ち抜きました。
ふたりはベッドの上で手をつないでいたそうです。
「たおやかな狂える手に」のラストを連想しないわけにはいきません。

「たったひとつの冴えたやりかた」も有名ですね。

(07.3.9.)


Amzon.co.jp : たったひとつの冴えたやりかた


「本の感想小屋」へ

「整理戸棚」へ

「更新履歴」へ

HOMEへ