クロード・ソーテ監督/愛を弾く女(1992)
(UN COEUR EN HIVER)
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ヴァイオリン工房を共同経営するマクシムとステファン。
社交的で如才ないマクシムが渉外と営業を担当し、寡黙なステファンは楽器の制作・修理に腕を振るう。
あるとき、マクシムが交際している美しいヴァイオリニスト・カミーユの楽器が不調に。
ステファンは彼女のヴァイオリンを調整して素晴らしい音を取り戻してやる。
ステファンに惹かれたカミーユはマクシムに別れを告げ、デビューCDの録音が完了した日にステファンに愛を告白する。
しかしステファンは彼女を冷たくはねのける・・・。
親分:1992年のフランス映画「愛を弾く女」。 原題は「冬の心」という意味らしい。
ガラッ八:例によって、原題と邦題がほとんど関係ないパターンですね。
親分:20年以上前にレーザーディスクを買って観た映画だ。
オレの好きなラヴェルのヴァイオリン・ソナタやピアノ三重奏曲が取り上げられているのでな。
ガラッ八:ホントですかそれ〜?
親分:・・・嘘です、じつはエマニュエル・ベアールが目当てでしたっ!
じっさいエマニュエル・ベアールは美しく、ヴァイオリンを弾く演技もなかなか堂に入っている。
親分:しかし肝心のストーリーがシンプルなのに理解困難。
「よくわからんな〜」というのが正直な感想だった。
ガラッ八:ストーリーはシンプルなのに、よくわからないんでやんすか?
親分:やたらに引っかかる映画で、何度か観かえしたんだが・・・。
最近もう一度観たくなったものの、レーザーディスクはもうないし、DVDも廃盤。
あきらめていたんだが昨年再発売され、ほぼ20年ぶりに観た。
ガラッ八:で、感想はどうでしたか?
親分:「よくわからんな〜」
ガラッ八:ぜんぜん進歩がないやないですか!
親分:登場人物の心理と行動がうまく理解できないんだ。
エマニュエル・ベアール演じるカミーユは、「ステファンが好きだ」と思うやいなや、一方的にマクシムに別れを告げ、
CD録音の打ち上げパーティーもバックれてステファンに会い、愛を告げる。
ガラッ八:いやそこは打ち上げくらい出ましょうよ、カミーユさん。
親分:ちょっと思い込みが激しいタイプではあるな。
別れを宣告されるマクシムも、じつは妻がいて(映画には登場しません)、夫婦仲は冷めているそうだが離婚はしていない。
誰もそこには突っ込まないし、カミーユも気にしてない様子だ。
ガラッ八:フランス人って、そういうこと気にしないんですかね?
親分:しかし一番わからないのが、ダニエル・オートゥイユ演じるステファン。
前半では明らかにカミーユに惹かれるそぶりを見せていたのに、あっさり振ってしまう。
独身で恋人もいない若い男がエマニュエル・ベアールに言い寄られて、剣もほろろに拒絶するか? おまえできるか?
ガラッ八:できません(きっぱり)。
親分:親友であるマキシムに遠慮したというのがいちばん自然な解釈だが、観ているとそういう感じでもないんだよな〜。
「君を口説こうかとも思ったが、遊びだよ。マクシムへの対抗心から出たものだ、僕は君を愛していない」
冷たい拒絶の言葉だ。 カミーユとマクシムのためを思うんなら、言い方ってものがあるだろうに。
ガラッ八:ステファンはマクシムが好きだったとか?
親分:同性愛を暗示するようなところもないんだなあ、これが。
結局のところ、自分の静かな世界を壊されたり変えられたりするのが怖かったのかもしれないな。
ガラッ八:ヘタレなやつですね〜、殴ってやりたいでやんす。
親分:しっかりマクシムに殴られていたからご心配なく。
「カミーユを泣かせやがって!」ってわけだ。
結局ヴァイオリン工房は解散、マクシムとカミーユは元サヤに戻るが、もう以前のようにはいかないんだろうな。
ガラッ八:・・・確かになんだかよくわからない話ですね。
アメリカ映画だったらステファンとカミーユは絶対にくっつくと思うんですが、さすがはフランス映画、一筋縄ではいかねえや。
親分:誰もが同じところで泣けたり笑えたりする、分かりやすいエンターテインメント映画の対極だな。
ガラッ八:つうことはこの映画、観る人によって受け止め方がいろいろってことですかい。
親分:色々な解釈ができそうだからな〜。
じっさい、他人の行動や心理なんて、わからないし。
誰彼かまわずオススメはしづらいが、エマニュエル・ベアールは綺麗だし、モーリス・ラヴェルのヴァイオリン曲が全編を彩ってるから、興味あれば観てみなよ。
不思議にあとを引く映画だぞ。
そういえば孤独を愛し、人付き合いを避け、仕事では完璧主義者だったモーリス・ラヴェルは、ステファンとどこか重なるな。
ガラッ八:なるほど〜、そこまで考えた選曲なんでしょうね、きっと。
親分:なお、エマニュエル・ベアールとダニエル・オートゥイユは、この映画の公開後に結婚している(現在は離婚)。
ガラッ八:へえ、やっぱり現実にはエマニュエル・ベアールを振れる男なんて存在しないんですねー。
(2018.11.18.)