野中映/名曲偏愛学(時事通信社 1992年)


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では、「名曲偏愛学」の講義を始めるよーん。

テキスト50ページを開いて。 きょう最初の課題曲は「バイエル教則本」だ。
はいそこのキミ、赤バイエルの第1曲を弾いてみてー。 「ドレドレ ドレドレ ドー」だね。
あー、違う違う、テキストを読み込んでいないねキミは。
野中先生はこう書かれている。
「楽譜の指示通り右手の親指と人差し指だけを使って弾くような子供には将来多くを望むことはできません。
 才能のある子供はまず最初の音を左手で弾きます。 そして次の音は右手、そのつぎの音は左足、
 さらに次の音は右足というように、からだ全体を使って音楽を表現しようとします。
 そして最後の全音符は思い切り頭で打鍵します。」
(52ページ)
はい、やってみてー。 ありゃ、ひっくりかえってしまったぞ。 修行が足りんっ!

ではつぎ、159ページ、「芸術におけるストイシズムについて」だ。
そう、真の芸術とはきびしいもの。 自己を冷徹な目で見つめ、理想にかなわぬ作品は決して発表してはならない。
「真の芸術家は20万回の推敲を重ね、その挙句に破棄する」(159ページ)のだ。
だから、作品を残している芸術家は、まだまだヒヨッコと言わねばならない。
交響詩「魔法使いの弟子」で有名な作曲家・デュカスは、生前に自分の作品の多くを破棄したそうだが、甘い甘い。
真の芸術家は、決して作品を残してはならないのだっ!

テキストの最後は、野中先生が選んだ「名曲選」についてのエッセイだ。
「私が良いと思う音楽こそ名曲である」という独りよがりな思い込みから、野中先生は自由だ。
客観的かつ普遍的かつ全人的立場に立って、子供からお年寄りまで楽しめる名曲を、
私情を排して冷徹な目で選んでいる。
 ネッケ「クシコスの郵便馬車」、マリー「金婚式」、ヨナーソン「かっこうワルツ」
 ブライアー「口笛吹きと子犬」、ミヒャエリス「森の鍛冶屋」、バダジェフスカ「乙女の祈り」
・・・。

おや、君たちどうしたんだね。 テキストを持っていない生徒が多いぞ。
え、絶版? この「名曲偏愛学」って、絶版なの?
なんということだ、この素晴らしいお笑い・・・もとい名著が!
古書ならばまだ手に入るかも知れないし、図書館で借りられるかもしれないな。
是非、来週までに読んでおくように。
では、今日の授業はここまで。

(06.1.15.)

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