蜂谷涼/へび女房
(文藝春秋 2007年)


Amazon.co.jp : へび女房


花街は、戦場じゃ。戦場に立つ者には、いかなる情も感ずる暇などない(141ページ)

明治初頭、まだ江戸の空気が色濃く残る東京で、
たくましく、したたかに生きる女たちを描いた傑作短編集。
(決して怪談ではありません。)


もう5〜6年前になりますか、
家の前の道を歩いていると、なにやら褐色の紐のようなものが落ちていました。
長さは50センチほど、
「なんだろな〜」と近づいて見ると、ヘビの抜け殻でした。
一瞬背筋がゾワッといたしました。
ヘビに恨みはありませんが、あまり気持ちが良いものではないですね。

さて、蜂谷涼「へび女房」
表紙イラストはなにやら妖気ただよう和服の女性。
流し目が色っぽいですね。

「この本、どんな本だと思う?」とうちの女房に見せたら、
「怪談モノ?」「和製ホラー?」という答えが返ってきました。
そういえば、梅図かずおの漫画にへび少女というメチャクチャ怖い名作があります。
子供のころに読んで、しばらく夜トイレに行けなくなりました。

それはさておき「へび女房」は怪談ではありません。
明治維新からまもない東京、激動する時代を
たくましくもしたたかに生きる女性たちを描いた連作短編集であります。

「へび女房」の主人公きちは、もとはれっきとした武家の妻。
しかし幕府が倒れ明治の世となり、夫は失業者。
腑抜けのようになってしまった夫、寝たきりの姑、3人の子を抱えて、
きちは、へび皮の湿布や、マムシの黒焼きなど、蛇を使った薬の商いを始め、
なんとか糊口をしのぎます。
「へび女房」と呼ばれながらも、薬の品質ときちの才覚で、商いが軌道に乗ってきたころ、
長男・仁太郎がこともあろうに吉原の遊女を娶りたいと言い出します。。。

いやあ、ええ話や〜。 (ToT)

皮肉屋のくせに人情モノに弱いワタシ、
後半の展開には思わずもらい泣きしそうになりましたよ。

収められた4編は、登場人物が緩やかにリンクして、
全体として明治初頭という時代の雰囲気を見事に感じさせてくれます。
明治の元勲も顔を出しますが、
主役はあくまでも無名の女性たち。

ぜひ多くの読者を獲得してほしい本です。
差し出がましいようですが、文庫化の際にはタイトルを変えられたほうが良いかも。。。。

(08.9.26.)

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