小池昌代/弦と響
(光文社 2011年)



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室内楽界に確固たる地位を占める鹿間弦楽四重奏団は、きょう30年の活動に終止符を打つ。
静かな包容力でカルテットを支えるチェロの伊井山耕太郎。
奔放な美女・ビオラの片山遼子。
妖しいまでの美男子・セカンドバイオリン文字相馬。
老いてなお禍々しいほどのエネルギーを放つファーストバイオリン鹿間五郎。
その日、それぞれの世界でそれぞれの日々を生きる人々が、ひとつのホールに向かう。
さまざまな人生が音楽という横糸を得て、レース模様のような物語を紡ぎだす。


まさに神をも恐れぬ所業というべきでしょうか。

 先日、チェロのレッスンのあとで先生が

 「ところで7月2日の土曜日の夜は空いていますか」

 「はあ、空いていると思いますが」

 「ちいさな発表会みたいなのやりますから」

 「はあ、なんの発表会ですか」

 「チェロに決まっているでしょう」

 「はあ、それで誰が発表するんですか」

 「生徒さんが十何人か・・・、もちろんあなたにも1曲弾いていただきます!」

 「はあ・・・、え? ええっ? ひええええ〜」

するとなんですか、私のチェロを人様にお聴かせするということですか!?
それは人間として許される範囲を逸脱しているのではないでしょうか。
ただちに人体に影響を与えるレベルではないと言い切れるでしょうか、私の演奏は・・・?
気分が悪くなる人が出たらどうすれば・・・?

と、混乱する私をよそに、曲目はなんと、
バッハ/無伴奏チェロ組曲第1番から「メヌエット」に決まりましたっ!
恐れ多くも、チェロの聖典「無伴奏」を、ワタクシゴトキが人前で・・・。

・・・と、とにかく練習しなきゃ。


こういう時に読んだからでしょうか、小池昌代「弦と響」
心にしみじみ(グサグサ?)沁みとおりました(突き刺さりました)

室内楽界に確固たる地位を占める鹿間弦楽四重奏団が、30年の活動に終止符を打つことに。
彼らのラスト・コンサートの日、演奏が始まってまもなく、第1ヴァイオリン奏者がステージに崩れ落ちる。
「殺人だ!」
衆人環視のなか、犯人はどうやって被害者を殺害したのか?

・・・違う違う、間違えた。 

どうも緊張のあまり混乱しております。

これはそのような下品な話ではなくて、
解散が決まった弦楽四重奏団のラスト・コンサートの一日を連作短編風に描いた、
たいへん格調高い小説であります。

四重奏団のメンバー、その家族、愛人(!)、マネージャー、ホールスタッフ、タウン誌の記者、
はじめてクラシックのコンサートを聴きに来た主婦、そして掃除のおばちゃんなど
さまざまな視点から描かれる、四重奏団最後の一日。

4人のメンバーはそれぞれ欠落や歪みを抱えていますが、
ステージに上がれば魔術のように完璧な調和を響かせます。
しかし、それも今日で最後。

何にでも「はじまりがあれば終わりがある」のは当然ですが(でも普段は忘れがち)
「どのように終わるか」というのは非常に重要なことだよなあ・・・と、人生の黄昏を迎えつつある私は思ったりも(←暗い)

弦楽四重奏団を題材にして、「うつくしい終焉」をやさしく描きあげた一編。
それでも、やっぱり終わりは哀しくて寂しいです。


しかしコンサートって、たくさんの人の努力と献身で成立しているんですね。
演奏家だけではできないのです、準備係裏方も大切。
発表会だってそうです、娘のピアノでよくわかっています。
ああ、それを、それを、ぶちこわしにしてしまうのかなあ私は・・・・・(←自分で決めつけるなよ)

・・・と、とにかく練習しなきゃ。

(11.6.21.)


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