ヴァーナー・ヴィンジ/遠き神々の炎(1992)
(中原尚哉・訳 東京創元社 1995年)

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<ストーリー>
様々なエイリアン種族が共存共栄する、遠未来のネットワーク銀河宇宙。
辺境の惑星ハイラブで、人類は50億年前のアーカイヴを発見する。
そこから目覚めたのは、邪悪な情報意識「疫病体」(意志を持つコンピュータウィルスみたいなもの?)。
解き放たれた「疫病体」は恐怖と混乱を巻き起こしつつ、恐るべき規模で銀河文明を蝕んでゆく。
しかし惑星ハイラブから間一髪、「疫病体」への「対抗策」を積んで脱出した一隻の船が存在した。
それは未開の地球型惑星に不時着し、犬形集合知性体「鉄爪族」の抗争に巻きこまれてしまう。
生き延びたのは二人の子供だけ。これを知った銀河世界は、彼らを救出せんと一隻の人類・エイリアン共同船を送る。
一方「疫病体」も、「対抗策」が発動する前にこれを破壊するべく魔手を伸ばしてくる。
刻々と迫る最後の時。絶賛を博したヒューゴー賞受賞巨篇!


普段の私の生活圏は半径5km。
家から職場まで10キロ足らずで、ほとんどその往復しかしませんから必然的にそうなります。
都会なら半径5kmでもなにかと盛り沢山ですが、あいにく私が住んでいるのはド田舎。
年をとってますます出不精になりましたしねえ。
たまに、「世界は広い、地球は一周4万キロもあるんだ!」という事実を思い出して、頭がクラクラします。

そんな生活の中で、ちまちま読んだこの小説。
舞台は遠未来の宇宙、人々は何万光年もひょいひょいワープして楽しそうです。
ところがうっかり太古の「疫病体」を目覚めさせてしまったからさあ大変、
何十もの文明(!)が、雪崩のように滅亡(!!)してゆきます。
なんつう乱暴かつスケールの大きい話だ、頭がクラクラします。

 ヴァーナー・ヴィンジ/遠き神々の炎(1992)

まずは基本設定がぶっ飛んでいて、大変素晴らしい。
「光速は有限」という聖アインシュタイン様の教えをハナっから無視、というか否定します。
いわく、銀河の中心付近では光速は有限だけど、中心から離れるにつれて光はより速く移動できるようになるんだとか。
なので銀河の外縁(際涯圏)では超高速移動や超高速データ処理が可能となり、銀河中心(低層圏)よりずっと高度な文明が発達するのです。
こんなハナシを、説得力たっぷりに繰り広げるのだから楽しい楽しい。

そして、犬形集合知性体「鉄爪族」の独創的でチャーミングなこと。
一見服を着た犬ですが、4個体から8個体が群れをなすことで知能が高まり、群れがひとつの意識を持つ設定。
1個体だけ離されると、たちまち退行してただの「犬」になってしまいます。
個体を入れ替えると群れのキャラが変わるし、入れ替えを繰り返しながら何百年もひとつの意識を保っている群れもいるし、超面白い連中。
そして「服を着た犬の群れ」のヴィジュアルを想像すると、なんか可愛らしい。

そんな賑やかな設定の上で展開される、スリルとサスペンス、戦いとサバイバルの王道娯楽SF大作。
大風呂敷広げて、盛大に盛り上げて、きれいに着地、こりゃヒューゴー賞も当たり前です。

さらにびっくりなのが、20年以上前に書かれたSFなのに、ぜんぜん古臭くないこと。
コンピュータ関連の話がポンポン出てくるのに、今読んでも違和感なし。
この小説が書かれたのは1992年、ウィンドウズ95も出てない頃なのに、スゴイ・・・。

著者ヴァーナー・ヴィンジの本業はサンディエゴ州立大学の数学教授。
専門はコンピュータ、やっぱりスゴイ・・・。

19年ぶりに本作の続編が書かれ、最近邦訳が出たそうです。
半径5km以内の本屋に置いてるかなあ。
週末に探しに行ってみます。


(2014.3.13.)

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