アンソニー・ルーデル/モーツァルトのドン・ジョヴァンニ
(田中樹里・訳 角川書店 2003年)


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注:この本はオペラの解説書ではありません。
1787年10月、プラハにおいて、モーツァルトの最高傑作(でしょう?)「ドン・ジョヴァンニ」が初演されるまでの数週間を、虚実おりまぜて描いた小説です。

ドン・ジョヴァンニの人物像がわからないと悩むモーツァルト
初演の日は迫っているのに、まだあちこちが未完成。
一方オペラのことしか頭にない夫に、愛妻コンスタンツェはご機嫌斜め。
そんな彼の前に、今は年老いた稀代のプレイボーイ、ジャコモ・カサノヴァが登場。
実体験に基づくアドヴァイスや演技指導を与えつつ、オペラを完成に導き、モーツァルトの夫婦の危機も救い、あざやかに去ってゆきます (「シェーン」かい!)
カサノヴァは、「老い」に悩みながらも「迷える若者達に道を指し示す人生の達人」であり、結果的にドン・ジョヴァンニのモデルでもある、とても美味しい役どころ。
ほかにも、たたき上げ&のし上がり系で複雑な性格の脚本家ダ・ポンテ
モーツァルト夫妻に友情と援助を惜しまない作曲家ドゥーシェクとその妻ヨゼファなど、脇役たちも活き活きと描かれています。
悪人は一人も出てこず、皆がオペラの成功を祈って力をあわせてゆくという、ある意味とても幸せな状況を描いた優雅な物語ではあります。

「世紀のプレイボーイ」カサノヴァ「永遠の子供」モーツァルトの組み合わせはホント絶妙。
カサノヴァが当時プラハに滞在していたことは、どうやら事実らしいです。
ただしモーツァルトと面識があったという証拠はどこにもないそうですが。

また、初演前日に序曲を一晩で書き上げたり、寒さをしのぐために夫婦で夜中じゅう踊った話、父親との愛憎など
よく知られたエピソードをストーリーのなかに巧みにはめ込んでいます。

モーツァルトとコンスタンツェが和解する場面は、「フィガロの結婚」のパロディ、二人の会話はそのまま「魔笛」のパパゲーノとパパゲーナの二重唱になり、
「コシ・ファン・トゥッテ」の登場人物・ドン・アルフォンゾのモデルは「あの人」だったという暴露話(?)まで、
モーツァルト・ファンであるほどいろいろな「仕掛け」が楽しめます。
おそらく私が見逃したネタもたくさんあるはず。

しかし、ドン・ジョヴァンニという人物は本当に魅力的。
最後は騎士長の亡霊に「悔い改めよ!」と脅迫されながらも「いやだ、悔いたりするもんか!」と信念を貫いたまま地獄に落ちてゆきます。
やはり人間、信念を持って生きねばなりません。
これからは私も、「トイレが長い!」「ビール飲みすぎ!」と家族に責められても、「いやだ、悔い改めないぞ!」これでいきましょう (単に開き直ってるだけですがな・・・)

 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」よりドンナ・アンナのアリア「私の誇りを奪い、父も奪った悪者よ」
 

(04.6.13.記)

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