恩田陸/ドミノ(角川書店、2001年、1400円)


Amazon.co.jp : ドミノ

7月のある雨の日のJR東京駅。
インターネット俳句仲間とのオフ会出席のため東京に出てきた老人。
ひょんなことから、荷物が別人のものとすりかわってしまうのですが
それが過激派が作った爆弾入りのバッグだったから、さあ大変。
当然、過激派は爆弾を取り返すべく、老人を追跡。
老人のほうは、荷物がすりかわったことには全く気づかないのですが
その俳句仲間たちというのがなんと全員警察OBで・・・
それ以外に、締め切り前に契約書を本社に届けねばならない保険会社のOLたち、
別れ話がこじれまくっている男女、
子役めざしてオーディションを受ける少女たち、
次期幹事長の座をめぐって推理合戦をくりひろげる大学ミステリ研の部員たち、
映画のプロモーションのため来日中のアメリカの若手映画監督など、
27人と1匹が、人ごみでごった返す東京駅を舞台に大騒動を巻き起こす、ある1日の物語。


恩田陸の群像ドタバタ・コメディー小説。
それぞれのキャラクターの描きわけが素晴らしくきっちりしていて、
どの人物も読者の心の中にしっかりとした像を結びます。
巻頭に「似顔絵付き登場人物紹介」が載っているのも面白いですが、
これがなくても混乱することはないんじゃないかと思うくらい、キャラの書き分け、完璧です。
かなり極端な性格付けがされたキャラが多いですが、まあコメディーですから。

これだけの数の人物を駒のように動かして、いろいろ伏線も張りながら
最後には見事な大団円に持っていく恩田陸の筆の冴え。いや〜すごいひとですね。
全体としては映画的なつくりで、あまり手を加えなくてもすぐにシナリオになりそう。
雑踏での荷物のすりかわりというのは、なかなか古典的な設定です。
「暗くなるまで待って」とか、思い出しますね)
カットバック手法を多用して、いろんな視点からストーリーをすすめていくので、
ある人物が大真面目でやっていることが、別の人物からはたまらなく滑稽に見えるというタイプの笑いが
随所で炸裂してます。
悪役は悪役らしく描かれ、読後感も非常にさわやか、楽しく読んで気分良くなれる小説です。
てっきり一気に書き上げたんだと思ったら、
KADOKAWAミステリに1年にわたり連載されたものだと知ってびっくりしました。
1日で読んでしまって、申し訳ないような気分になりました。
でも考えてみると、こういう小説ほど、緻密な計算と時間をかけた推敲が必要なんですよね、きっと。
理屈抜きで面白くて、小難しくなくて、気分がすっきりする小説が読みたい人に、おすすめではないかと。

(01.12.24.記)

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