エリック・アンブラー/ディミトリオスの棺(1939)
菊池光・訳 (ハヤカワ・ミステリ文庫)




Amazon.co.jp : ディミトリオスの棺

<ストーリー>
 イギリス人探偵小説作家・チャールズ・ラティマーは、旅行で訪れたトルコで、友人の警察署長から、
 ギリシャの国際的犯罪者ディミトリオス・マクロポウロスが他殺体で発見されたと聞かされます。
 興味をひかれたラティマーは、安置所まで行き、ディミトリオスの死体を見て、
 この男の生涯を調べたいという衝動にかられます。
 トルコからギリシャ、そしてブルガリアへ、ディミトリオスの足跡をたどるうち、
 ラティマーは何者かが自分のあとをつけていることに気づきます。


またまた、祝・アテネ・オリンピック!

というわけで、ギリシャにちなんだミステリです (イギリス人の作品ですけど)
エラリー・クイーンの「ギリシャ棺の謎」 (なぜかこれも棺) にするか、迷いましたが、サスペンス・ミステリのクラシックと言われる本作品を。

鋭い頭脳と野心を持つディミトリオスは、高潔で気品のある外見とは裏腹に、邪悪で危険な男ですが、
不思議な人間的魅力を持っていて、人はつい彼に従ってしまいます。
いわば闇のヒーローか。

ナイトクラブの経営者だったのにディミトリオスと知り合ったばかりに、麻薬密売の片棒を担ぐ羽目になる平凡な男や、
ディミトリオスに入れ揚げたあげくに裏切られ、今も彼が戻ってくるのを待っている、もう若くはない女、
引退して悠悠自適の生活を送る元大物スパイなど、脇役もみんな活き活きしています。

とは言え65年も前のサスペンス小説です。 良くも悪くも素朴で単純、
後半(第11章)の、ちょっとしたどんでん返しも、現代の読者なら、最初から予想の範囲内でしょう。
ラストも、こんなにあっさりしていていいのか! と思わないでもないです。

しかし、最近のミステリはやたらと長いうえ、小児虐待やら暴力シーンの連続で、うんざりすること多々。
この作品は、書き方に節度があって、長さも手ごろで、ストーリーはシンプル。
昔の娯楽小説って、こんなだったんですねえ。 

物語の舞台は、トルコ、ギリシャ、ブルガリア、スイス、そしてパリと、ヨーロッパ中をめぐります。
旅から旅へのラティマーを見ていると、当時の作家というのはこんなにヒマで贅沢な身分だったのかと妙なところに感心(何ヶ月も仕事そっちのけ!)。
あちこち舞台を移し、華やかに目先を変えながら展開してゆく娯楽サスペンスといえば、
「007シリーズ」を連想しますが、ことによるとフレミングのジェームズ・ボンドはアンブラーの影響を受けているのかも。
(04.8.27.記)


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