ジョナサン・キャロル/死者の書
(1980 創元推理文庫)


Amazon.co.jp : 死者の書


<ストーリー>
高校教師トーマス・アビイは、敬愛する作家マーシャル・フランスの伝記を書きたいばかりに仕事をやめ、
恋人サクソニーとともに、フランスが晩年を過ごした田舎町ゲイレンを訪れる。
気難しく人嫌いと聞いていたフランスの娘アンナは意外にもふたりを歓迎し、伝記の執筆を快諾。
しかし、なにかがおかしい。 静かでのどかな町だけど、ここにはどこか妙なところがある・・・。


完璧な作品です


ダーク・ファンタジーの貴公子ジョナサン・キャロル、戦慄のデビュー作はこちらでございます。

マーシャル・フランスは1922年オーストリア生まれ、16歳で単身アメリカに渡り、NYでしばらく生活した後に
ミズーリ州のゲイレンという小さな街に移り、そこで生涯を過ごし、1966年死去。
作品は極彩色の幻想が飛翔するようなファンタジーばかり。
基本的に童話ですが、その深遠で独創的な世界に魅了されたファンは数多く、
成人の愛好家も少なくありません。
初版本は、かなりの高値で取引されているそうです。
文字通り珠玉のような彼の作品の数々、一日も早い邦訳が待たれます
・・・・が、残念ながら架空の作家であります

フランスが隠遁者のような生活を送っていたゲイレンの人々は、みな素朴でフレンドリー。
フランスの美しい娘アンナは、伝記を書くための資料を惜しげもなく提供してくれます。

・・・・・あれ、おかしいぞ?
確か、いままでマーシャル・フランスの伝記を書こうとしたものは皆、
けんもほろろに断られ、追い払われたのではなかったか?


謎の作家マーシャル・フランスの秘密が明らかになるのは、全体の4分の3あたり。
これだけでもかなり驚愕ものですが、本当の山場はまだこれから。
ひたひたと沁みてくる不安、恐怖、ラストのカタストロフ、
そしてわずか4ページのエピローグに秘められた驚きの結末・・・。
うーむ、やっぱり「完璧」です。
ホラー小説は苦手な私ですが、これは「ホラー」ではなく「ダーク・ファンタジー」ですね。
え、なにが違うのかって? 私にも読めることです。

ジョナサン・キャロルでは、他に「月の骨」もかなり好きです。
異世界ロンデュアの詩情あふれる描写にノックアウトされました。
キャロルは、現在も旺盛に執筆を続けています。
いまだに「死者の書」を越える作品はないようですが、まだまだこれから、期待しています。

(06.5.25.)

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