ブッツァーティ/神を見た犬
(光文社古典新訳文庫 2007年)



Amazon.co.jp : 神を見た犬

イタリアの星新一?


昨年から、「光文社古典新訳文庫」と銘打って、
ゴーゴリ「鼻/外套」、ドフトエフスキー「カラマーゾフの兄弟」」など、名作古典が新しい訳で続々と出ています。
その中に、まったくなじみのない名前が。

 ディノ・ブッツァーティ(1906〜1972)

トルストイ、シェイクスピア、ディケンズなど、そうそうたる面々に混じって、聞いたこともない名前。
激しく興味をそそられます。 読んでみました。
ブッツァーティはイタリアの作家、なじみがないのも当然、過去に翻訳された本はすべて絶版、それも多くはありません。
ほとんど本邦初紹介と言っても良いくらいですが、いや面白かった。 
この作家をラインアップに加えた編集者さんの英断に拍手を送りたいです。

古典文学的な堅苦しさはありません。
オチの効いた短編を得意としているようで、この本には22編が収められています。
十数ページ程度の短い作品が多く、わが国の星新一を少し幻想的にしたような感じです。
クリスチャンらしく、神や教会を扱った作品が多いですが、あまり説教くさくないのはいいですね。

「コロンブレ」「アインシュタインとの約束」などは、オチが鮮やか。
「呪われた背広」はハイレベルなホラー短編。
「七階」はカフカ的不条理の世界、結末は最初から見えているものの、強い印象を残します。

表題作の「神を見た犬」は、宗教心に対する皮肉の効いた一編。一番長い作品で、60ページ近くあります。
宗教に熱心でない村に突如現れた神の使いの犬。
吠えるでも噛み付くでもなく、村をうろつくだけなのですが、うっとおしいことこの上ない。
でも、神様に悪く思われたくない村人は、突然宗教に篤いふりをしはじめます。
コメディタッチで軽く読めますが、何かひっかかります。 尾を引きます(←犬だけに)。

カバーの犬の絵が可愛らしいですね。
この犬、顔以外は一筆書き?

(07.5.5.)



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