レオ・ブルース/三人の名探偵のための事件(小林晋 訳)
(新樹社 1998年 単行本 2000円)



三人の名探偵のための事件

<ストーリー>
裕福な医師サーストン氏の屋敷で、夫人が密室状態で殺害された。
屋敷には一癖も二癖もある滞在客が数人。使用人にもうさんくさい人物がいる様子。
翌日、どこからともなく(?)三人の名探偵があらわれる。
忠実な執事を後ろに従えた青年貴族、サイモン卿。
大きな卵型の頭をして外国なまり丸出しのアメ・ピコン氏。
古ぼけた聖職者のマントに身を包んだ小男、スミス神父。
そして地元警察からは、赤ら顔でビールとダーツをこよなく愛する鈍重そうなビーフ巡査部長が出馬。
名探偵たちの華麗な推理合戦の幕が切って落とされた。


二十世紀中盤にイギリスで活躍したミステリ作家、レオ・ブルースの1936年の処女長編。
といってもこの人、日本ではほとんど紹介されておらず、私も今まで知りませんでした。
この作品は、いわゆる「探偵小説黄金期」に書かれた、ミステリの上質なパロディです。
多少ミステリを読んでいる人にはすぐ分かりますが、サイモン卿はピーター・ウィムジイ卿
アメ・ピコンはエルキュール・ポワロ、スミス神父はブラウン神父のパロディです。

この3人が、それぞれ彼ららしいスタイルで捜査を進めていくなか、
推理小説というもの自体に対する皮肉が随所にちりばめられます。
事件自体まるで小説のためにあつらえたような密室ものですし、
滞在客が5人も6人もいるのも妙な話です。
なぜか警察よりも名探偵の捜査が優先しますし、
真相に到達しても、探偵はその場では犯人の名を明かしません。
そのたびに物語の語り手は疑問をさしはさむのですが、
結局、「名探偵とはそういうものなのだ」と無理やり自分を納得させるのが笑えます。
そして最後に一同書斎に集まって、探偵たちが自分の推理をとうとうと弁じたてます。

ところがなんと、三人の名探偵たちの推理はすべて別々の人物を名指します。
みんなが混乱する中、鈍重なビーフ巡査部長がやおら腰をあげ・・・。

一種の多重解決ものでもあるので、アンソニー・バークリーの傑作「毒入りチョコレート事件」を思い出させます。
本格ミステリへの愛情と遊び心にあふれた楽しい小説です。
(そういえばわが国にも、東野圭吾の「名探偵の掟」「名探偵の呪縛」という、傑作パロディがありますね)
巻末の真田啓介氏の解説も、非常に詳しく、面白く読めます。
(02.2.18.記)

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