楠かつのり/「詩のボクシング」って何だ !?
(新書館、2002年)




Amazon.co.jp : 「詩のボクシング」って何だ!?

「現代詩」というものには、いままであまり興味はなかったのですが・・・

先日、NHK教育TVで、「第2回 詩のボクシング 全国大会」 の放映がありました。
二人の「選手」が、リングに上がって自作の詩を朗読(制限時間3分、パフォーマンス可)、
9人の審判が、どちらが面白かったかを判定して勝負をつける、というものでした。
会場の東京・水道橋のバリオ・ホールは観客でいっぱい。
地方予選を勝ち抜いてきた選手たちがトーナメントを戦います。

決勝戦ではあらかじめ準備してきた詩を朗読したあとに、
その場で与えられたテーマに基づいて「即興詩対決」が行われます。
今回のテーマは、ひとりが「言葉」、もうひとりが「声」だったと思いますが、とてもスリリングでした。 
即興で詩がするする滑り出して来るなんて、彼らはどういう頭になっているのでしょう。
私だったら脂汗を流しながら卒倒ですね。

さて、この本は、「詩のボクシング」の考案者である楠かつのり氏(現・日本朗読ボクシング協会代表)が、
「詩のボクシング」発足からいままでの道のりを語った1冊。

売れない(失礼)詩人/映像作家だった楠氏は、活字だけの詩に限界を感じて、
「声の力をもっと広めよう、声による詩をもっともっと楽しんでもらえる場を作ろう」と考え、
「闘いの形式で詩を見せたら面白い」 と、「詩のボクシング」を思いつきます。
谷川俊太郎氏や、ねじめ正一氏など、有名な詩人の協力を得て、
何度かエキジビション・マッチを行ったところ、思いのほか好評。
それではと一般人の参加をつのって地方大会をいくつか開き、
ついに2001年5月に東京で第1回 「詩のボクシング」全国大会を開きます。

その第1回大会で見事優勝に輝いたのが、17歳の女子高校生、若林真理子さん。
決勝戦では9人のジャッジ全員が若林選手の勝利とする、「フルマーク判定」で圧勝。
たしかに若林さんの詩は、どれも完成度が高くて、高校生の作品とは思えません。

「バター」 という題で語った即興詩、素晴らしいのひとこと。 (即興とは、信じられん。)
 

 「バター」   若林真理子

   とけていくバターのように
   わたしのこころが
   しずかにかたちをなくしていく

   光もやみも
   いま等しくわたしを愛す
   光のなかに
   うつくしい粉々のやみがみえる

   やみはミルクのにおいがする
   ミルクのにおいは母のにおいである

   母のにおいは光にまじり
   溶けたバターのように 
   わたしの記憶を侵食してゆく

   記憶のなかはなぜこのように
   まぶしい光にあふれているのでしょうか
   そして記憶のなかの光の
   むこうがわにおちているはずの影が
   少しも見えないのはなぜでしょうか

   わたしはやみのなかにいる
   やみのなかにひとすじの光の水滴がながれる
   それはあつい湯の川のようです
                    (以下略)

    

これが 「天才」、 というものでしょうか。
本に収録されている詩では飽き足らず、朗読CDもつい買ってしまったのですが、声もいいですね。
彼女の声は少し鼻にかかったハイトーン・ヴォイス。なんだか幼い印象で、朗読も素人っぽいですが(素人ですってば)、
奇妙に味わい深い声で、ついつい聞き入ってしまいます。
そして催眠効果もあるのでしょうか、そのうち眠くなってきます(おいおい)。 詩的ないい夢が見られそうです。

さてさて、「詩のボクシング」は、これから現代詩の世界を変えていくのでしょうか?

(02.10.24.記)



CD : 若林真理子/朗読詩集「ひまわり」

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