青木やよひ/ベートーヴェン<不滅の恋人>の探求(平凡社ライブラリー 2007年)
ベートーヴェンの生涯
(平凡社新書 2009年)



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ベートーヴェン研究家の青木やよひさんが、昨年11月に亡くなっていたことを、つい最近知りました。
青木さんといえば、「不滅の恋人」研究で名高い人。

え、「不滅の恋人」って何ですかって?

・・・ベートーヴェンが亡くなった翌日、家具の隠し引き出しから、3通の熱烈なラヴレターが発見されました。
筆跡はベートーヴェンのものでした。


 「私たちの愛は、犠牲によってしか、すべてを求めないことでしか、成り立たないのでしょうか?
  あなたが完全に私のものでなく、私が完全にあなたのものでないことを、あなたは変えられるのですか?」

 「私の忠実な唯一の宝、私のすべてでいてください。あなたにとって私がそうであるように」

 「あなたがどんなに私を愛していようと、私はそれ以上にあなたを愛している」

 「わが不滅の恋人よ、運命が私たちの願いをかなえてくれるのを待ちながら、心は喜びに満たされたり、また悲しみに沈んだりしています」

 「永遠にあなたの、 永遠に私の、 永遠に私たちの」          (以上「不滅の恋人」への手紙より抜粋)


・・・抑えようのない情熱がほとばしり出るような、迫力と切迫感に満ちたこの手紙は、
いつ、誰に向けて書かれたのか、また相手に届けられたのかどうかすら、長い間不明でした。

「不滅の恋人」は誰なのか?
ジュリエッタ・グッチャルディ、テレーゼ・ブルンスヴィックなど、ベートーヴェンの周囲にいた女性たちから、
「脳内彼女」説まで、長い間諸説が入り乱れました。
しかし青木やよひさんは、当時の記録や多くの一次資料にあたり、ついに「不滅の恋人」の正体をつきとめ、
現在その説は広く認められているそうです。

・・・しかし考えてみるとベートーヴェンも気の毒

せっかく隠していたラヴレターを死後に見つけられ、
あーでもないこーでもないと世界中から百数十年にわたって詮索され続けるとは。
これ以上の羞恥プレイがあるでしょうか。
穴があったら入りたい(墓穴入ってるけど)、いやいっそ死にたい!(死んでるけど)と思ってるでしょうね、きっと。

まあそれはそれとして、本書「ベートーヴェン<不滅の恋人>の探求」は、実にスリリングです。
推理の過程は緻密かつ周到、並のミステリよりずっと面白いです。
禁断の恋に悩む天才芸術家・ベートーヴェン。
激しく燃えて、はかなく破れた恋の行方に、読者は大きな感動を覚えることでしょう。
恋が終わった後のベートーヴェンの態度もまた立派。
あんた偉いよルートヴィヒ! それでこそ男だよ!(←何様じゃ)

また、「不滅の恋人」ではなかったけれど、ヨゼフィーネ・ダイム伯爵夫人との恋と、
彼女の悲しい行く末には、せつなくなります。

いやあ、ベートーヴェンって、じつはモテモテだったんですねぇ、知ってましたかあなた。


「ベートーヴェンの生涯」のほうは、タイトル通り彼の生涯を年代順に追いかけた評伝です。
ロマン・ロランにも同名の書物がありまして、私も「かつて読んだぞ、確かに読んだぞ!」という美しい思い出がありますが
内容は全く覚えていません。

しかし青木さんは、ロマン・ロランが作り上げた、「気難しく悲劇的な英雄」像を真向から否定、
笑い、喜び、泣き、怒り、家族思いで、友達思いで、女性とも幅広く付き合い、恋もする、
人間味にあふれた偉大な芸術家ベートーヴェンを、数々の資料を駆使して、説得力たっぷりに描きます。
ベートーヴェンの音楽はそこそこ聴いていながら、その人物についてはいかに無知であったかを思い知らされました。
そして人物像を知った上で聴くと・・・おお!

読む前と後では、ベートーヴェンの音楽が全く違って聴こえるという、
いわば「ベートヴェン鑑賞のコペルニクス的転回」(←大げさ)を体験させてくれる、素晴らしい著作でした。

ベートーヴェンにちょっとでも興味のある人のための「必読図書」に、勝手に選定させていただきたいと思うのであります(←何様じゃ)

(10.1.30.)

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