ベートーヴェン/変奏曲とバガテル全集(5枚組)
(アルフレード・ブレンデル 1961〜64録音)



Amazon.co.jp : Piano Variations & Bagatelles

Tower@jp : Piano Variations & Bagatells


ベートヴェンのピアノ曲といえば、ピアノの新約聖書として音楽史上に燦然とそびえたつ32曲のピアノ・ソナタが代表。
しかし、ピアノのための変奏曲や小品も意外にたくさんあるのです。

これはそれらをまとめた5枚組で、巨匠アルフレード・ブレンデル若き日の演奏です。
全集好きの血が騒ぎ、ずっと以前に購入したものの、買えば安心する悪い癖が出て、ろくに聴かずに積んでました。

ようやく聴いてみると、おや意外といいじゃありませんか。
肩肘張った曲はあまりなく、ゆったりまったりした雰囲気。
もちろん緻密で圧倒的で構成堅固でテンション高いソナタは素晴らしいですが、そういうのばかりだと疲れちゃいますからね。

そういえば長女がむかし発表会で「イギリス国歌による変奏曲」を弾いたっけ。
「ベートーヴェンにこんな曲があるんだ!」とびっくりしたものです。

 

いちばん好きなのは、「自作主題による32の変奏曲ハ短調WoO.80」
"WoO"は、「作品番号のない作品」を意味しますが、これほどの名曲になぜ番号を与えなかったのか不思議です(1807年出版)。
傑作として現在でも盛んに演奏される人気曲です。

 

「パイジェルロの主題による変奏曲 WoO.70」は、ベートーヴェンがガールフレンドとパイジェルロのオペラ「粉屋の娘」を鑑賞、
その晩のうちにオペラのアリアを主題にササッと作曲、翌朝彼女にプレゼントしたという逸話がある曲ですが、ホントですかそれー!
どこのリア充イケメンだよそいつ、俺の知ってるベートーヴェンじゃねえよそれ。

 

ほかにも、「英雄交響曲」第4楽章の主題による「エロイカ変奏曲」、自作の「トルコ行進曲」(モーツァルトのではない)による変奏曲など、
充実の傑作でありながらどこか軽妙で余裕があって、いやーなかなかいいですねベートーヴェンの変奏曲。

と思ったら最後に難物が控えていました。

「ディアベッリの主題による33の変奏曲 作品120」
演奏時間1時間におよぶ大曲です。
CD何枚か持っていますが、途中で飽きてしまい最後まで聴き通せたためしがありません。
しかしまあ、若いブレンデルのイキのいい演奏なら聴けるかな・・・と久しぶりに挑戦したら聴けました!
「変奏曲」だと思うからいけないのかもしれません、短いピアノ曲をまとめた小品集だと思って聴くとけっこう楽しいし、美しい瞬間がたくさん。

あと、ベートーヴェンは「バガテル」という名のピアノ小品をたくさん書いています。
「バガテル」とは「ちょっとしたもの」「つまらないもの」という意味。
しかしベートーヴェンの場合「つまらないものですが・・・」と謙遜しながら、じつはかなりの高級品です、日本のお中元かお歳暮か。

作曲中に浮かんだ面白いメロディやアイディアで、ソナタに組み込もうとしたけど結局あぶれてしまったもの、
でも捨てるには惜しいものを落穂拾い的にまとめたもの、それが「バガテル」。
晩年の作品も多く、意外に深遠で「オッ」と思わされたりします。
どの曲も短いので退屈しないのも大きい。
なお「エリーゼのために」も「バガテル」と題されています。

ベートーヴェンとは思えなくらいお洒落でエレガントな曲もあります(←微妙に失礼)

 バガテル 作品119の3 ニ長調
 

ベートーヴェンの、ソナタ以外のピアノ曲が一度に揃う、お得で手軽なセット。
内容も演奏もとっても良かったです。

(2017.10.06.)

「音楽の感想小屋」へ

「整理戸棚」へ

「更新履歴」へ

HOMEへ