ベルナール・ウェルベル/「蟻」三部作(角川文庫)


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<ストーリー>
 「地下室に立ち入り厳禁!」という遺言を残して死んだ伯父。
 彼の家をゆずりうけたジョナサンは、誘惑に抗し切れずに地下に降りてゆき、そのまま姿を消します。
 そして彼を探しに入った妻、警官、息子・・・、地下室に下りた人間はなぜか誰一人帰ってきません。
 一方、フォンテーヌブローの森の奥深く、要塞のような巨大なアリの巣の中では、
 無数のアリたちが見事な社会を作り上げていました。


フランスの作家、ベルナール・ウェルベルが、1991年から96年にかけて書いた蟻三部作

滑り出しはサスペンス・ホラーのよう。
しかし、並行してアリ社会の様子がリアルかつ緻密に描写されます。
さらにそれらの間に、エドモン・ウェルズ「相対的かつ絶対的知の百科辞典」なる架空の書物からの引用文がたびたび挿入されます。
そして、「人間の物語」「アリの物語」「百科事典の引用」が交互に語られつつ、徐々にひとつの物語にまとめあがってゆきます。

人間とアリがどうしてひとつの物語にまとまるの?? とお思いでしょうが、このあたり著者の手際はじつに巧み。
「そんなことあるわけないだろ〜」と思いつつ、なんとなく納得させられてしまいます。

タイトルから想像つくように、人間よりアリたちのほうがずっと魅力的に書けてます。
というかこの小説に登場する人間達は、地下の空洞に閉じ込められても平然としていたり、警察官なのに連続殺人犯をあっさり見逃したり、
本一冊読んだだけで「革命だ!」と興奮したり、ホントに革命はじめてしまったり、その「革命」がトントン拍子に進んでいったり (ここはご都合主義でちょっとしらける)
作者の都合でいろんな無理なことをやらされるので、あまり感情移入できないというか、むしろ読んでいて気の毒になってきます (この小説の登場人物には、なりたくないなあ)。

いっぽうで、アリの世界の見事に活き活きと描写されていること。
この世界にはちょっと入り込んでみたい気も・・・(ドンくさい私はすぐ人間に踏まれてしまいそうですが)。
もっとも交尾の描写などはひたすらリアルでむしろ厳しいもの。
オスは交尾を終えれば死んでしまうし、無事交尾を終えたメスも大半は鳥や小動物のエサとなる運命。
1500匹の有性メスのうち、生き延びて女王アリになれるのはほんの5〜6匹。

著者のウェルベルは、もと科学ジャーナリスト。6歳からアリに興味を持ち、
第1部の執筆にはなんと13年をかけたといいますから、アリを描く筆には愛情と知識があふれています。
昆虫が主人公の話といえば、「みつばちハッチ」くらいしか思い浮かばん私、アリは、家の裏の神社でよく見かけますが、明日から見る目が変わりそうです。

流れとしては、第1部「蟻」で、人間とアリ、二つの世界の出会いを描き、
第2部「蟻の時代」は人間とアリの対立、第3部「蟻の革命」では融和を描いています。
ただ、内容はホラーあり、ミステリー(密室!)あり、青春小説あり、クイズあり。
おまけに「相対的かつ絶対的知の百科辞典」がこれまた楽しいウンチク話のオンパレードで、全然退屈しません。
著者には思想的、哲学的にいろいろ言いたい事があるようではありますが、
とにかく話が面白すぎ/内容盛りだくさんで、読んでる間はそういう難しいことはどうでもいいじゃんと言いたくなります。
読んだ後でゆっくり思索にふけることになりそうです。

まさに奇想と空想が暴走する闇鍋小説。 
はっきり言えばホラ話、この作者どう考えても狂ってますが(←褒めてます)、これほど壮大華麗なホラには滅多にお目にかかれるものではありません。

(03.11.26.記)


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