片岡千歳/古本屋タンポポのあけくれ
(夏葉社 2023年)



Amazon : 古本屋タンポポのあけくれ

うどん県の片田舎に住んでいますが、自転車で5分ほどのショッピングセンターに、わりと大きな紀伊國屋書店が入っています。
週に一度は行って、店内を回遊魚のようにふらふらと巡るのが楽しみ。
先日ふと目にとまった本です。

 片岡千歳/古本屋タンポポのあけくれ

まずは本自体の佇まいに惹かれました。
シンプルだけど気品のあるオフホワイトの装丁、いまどき珍しく豪華な箱入りです。


 

よく見ると夏葉社の本ではありませんか。
「古くてあたらしい仕事」(新潮文庫)の島田潤一郎さんの個人出版社で、「何度も読み返される本」をモットーに綺麗で素敵な書籍を丁寧に造る会社です。
これは買うしかありません。

詩を愛する夫婦が1963年、高知市に小さな古書店「タンポポ書店」を開きました。
最初は詩集をたくさん置きましたが、それ以上に雑本が並ぶようになり、入り口には50円均一の棚もできました。
3人の子どもを養うため、夫は副業で長距離トラックの運転手になり、妻は店舗だけでなく、催事場やスーパーでも古本を売ります。
夫が病死しした後も、妻の片岡千歳さんは 2004年までひとりで店を続け、2008年に亡くなりました。

店主・千歳さんが2004年に自費出版したエッセイを、夏葉社の島田潤一郎さんが発掘し2023年に復刊。
こんな良い本をよくぞ見つけ、出版してくれましたと御礼申し上げたいです。

片岡さんの文章は生活に根ざした飾り気のないもので、あたたかみがあります。
詩人だけあって、淡々としながらリズムのある文章が、読者の心を解きほぐしてくれます。

 私は古本屋をしております。父が亡くなって姉も女学校を中退し、私は高校へ進学できませんでした。
 卒業間近くなり、いよいよ進学は無理と分かった時、私の前途は閉ざされたような気持ちでした。
 そんな暗い想いでいた私に、先生はおっしゃいました。
 ”お前は何のために高校へ行きたいのか。高校へかなくても勉強はできる。本を読みなさい。
 岩波文庫の後ろのページに、世界の古典の目録が出ている。あれを全部読んだら高校卒、いや大学卒にだって負けない”
(59ページ)

これはたしかに、折にふれ何度も読み返す本になりそう。
願わくば本であふれかえっている我が家の中で行方不明にならないことを祈ります。

(2024.11.16.)

「更新履歴」へ

「本の感想小屋」へ

「整理戸棚(索引)」へ

HOMEへ