桜庭一樹/赤朽葉家の伝説
(東京創元社 2006年)



Amazon.co.jp : 赤朽葉家の伝説


私たちは、その時代の人間としてしか生きられないのだろうか


<ストーリー>
鳥取県の山間部で、古くから製鉄(タタラ)業を営む旧家・赤朽葉家
その戦後60年の怒涛の歴史が、赤朽葉家三代の女を通して描かれます。



田舎、旧家、女三代
、とくれば 

 「宮尾登美子の世界かよ〜」

と思いつつ読んだのですが、かなり違ってました。

むしろジョン・アーヴィングホテル・ニューハンプシャーを思わせる、ぶっ飛び一族のトンデモ・サーガ。
たくさん人が死ぬわりにあっけらかんとした語り口なのも、アーヴィング風。
千里眼奥様万葉、最強レディース毛毬、怨念のかたまり百夜など、
超個性的なキャラクター(みな女性)たちが、物語を華やかに、というかどぎつく彩ります。
山陰地方のど田舎を舞台にしながら、なんなんでしょうねこの原色ギラギラ濃ゆ〜いノリは。

そしてもうひとつの主役は、この日本という国
地方の、それも山間部から、国の歴史を見つめるとは、なんとも面白い視点。
戦後60年のわが国の歩みを、さらりと俯瞰します。
登場人物が誰も田舎から一歩も出ないので、もとより深く突っ込みようがないのですが、
「おかめはちもく」離れたほうが良く見えることもあり、この「さらり」は実は高等戦略かも。

物語自体、書きようでいくらでもドロドロにできるところ、あえて軽いフットワークで駆け抜ける60年。
さらーっと読ませておいて、後からじわじわ来るのです、赤朽葉家三代の女たちの生き方が。
もちろん、瞳子と同じ現代を生きる、われわれ読者の生きかたもまた問われているわけですが、
問われていると思った人はご自由にお考えください、と言わんばかりのカラリとしたエンディング。
押し付けがましくないのが、かえって心に残ったりして。

桜庭一樹さん(女性です)は、これが初読み。
ミステリ作家と思っていたのですが、枠にとらわれない自由な世界を描く人ですね。
素晴らしい小説でした。

(07.5.13.)

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