デイヴィッド・ベニオフ/99999(ナインズ)
David Benioff/When the Nines Roll Over
(新潮文庫 2006年)




Amazon.co.jp : 99999(ナインズ)


ダークでメカニカルなデザインの表紙です。

 元レーサーのアル中男が、ひょんなきっかけから悪の組織の抗争に巻き込まれ、命がけの逃避行ドライヴへ、
 死んだ恋人が遺した謎の言葉「99999」は、何を意味するのか??


みたいなストーリーを想像しますが、全然違いました(え、そんな想像するのはお前ぐらいだって?)
さまざまな人生の一断面を鮮やかに切り取った短編集であります。 ブンガクであります。
全編に、静かな諦念が、通奏低音のように流れています。

クルマの走行距離計の数字が「99999」から「00000」になる瞬間を楽しみに待つ売れないドラマー。
彼を捨ててメジャーレーベルと契約し、西海岸へ旅立つ女性ヴォーカリスト。
右も左もわからないチェチェンにいきなり派遣されたロシアの若年兵。
友人から無理やり借りた車に、出会ったばかりの女子高生を乗せて、チョコレートを食べに行く若者。
有名女優に似すぎているばかりに、なかなか役をもらえない女優の卵。

巧みな語り口のおかげで、どの人物の人生も、なんともリアルに感じられます。
作者が物語に合わせて登場人物をあつらえたのではなく、実在する無名の人々をスケッチしたかのよう。
本当にそういう人たちが、この世界のどこかで暮らしているのではないかと思えます。

映画のような、絵になるシーンが多いのも特徴。
真夜中、舗道で怒りのドラムを叩き続けるサッドジョー。
ニューヨークの街を堂々と闊歩するライオン。
恋人の父親の「遺骨」を貯水池に撒く男。
・・・列挙してみると奇妙な情景ばかりですが、小説の中ではぴったりはまります。
それもそのはず、デイヴィッド・ベニオフは主に映画のシナリオ・ライターとして活躍している人。
私は観ていませんが、「トロイ」という映画の脚本を書いているそうです。

(06.12.12.)

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